最新記事

オーストラリア

次の対中輸出資源は豪特産カンガルー

資源大国の意地をかけたカンガルー大輸出計画のネックは、O-157の感染リスクとペットフードみたいな味

2011年4月20日(水)16時46分
トーマス・ムチャ

食べたい? 牛肉とわきがの臭いが混じったような味との声も Mick Tsikas-Reuters

 好調なオーストラリア経済の最大の牽引役は天然資源。貪欲に資源を求める中国への輸出を増やすことで、オーストラリアは経済危機を見事に乗り切ってきた。

 いまや中国は、オーストラリア最大の貿易相手国。鉄鉱石や石炭、天然ガスを含む様々な工業鉱物の対中輸出高は年間552億ドルに上り、総輸出高の20%以上を占める。

 だとすれば、起業家精神にあふれる人々が、対中輸出品のリストに新たな天然資源──カンガルー──を加えたいと考えるのは当然のこと。オーストラリア大陸にはカンガルーが無数に生息し、中国は腹を空かせてその肉を待ち望んでいる、というのが彼らの主張だ。

 ニューヨーク・タイムズ紙は先日、カンガルーの中国輸出計画についての興味深い記事を掲載。輸出促進を訴えるオーストラリア・カンガルー産業協会のジョン・ケリー事務局長は「中国には野生動物を料理に使う伝統がある」と同紙にコメントしている。「カンガルーはヨーロッパ市場で受け入れられたのと同じように、中国の伝統にもぴったりフィットするだろう」
 
 同紙によれば、中国はカンガルーの精肉業者の衛生状況を視察するため、昨年12月に政府の代表団をオーストラリアに派遣したという。

 それには理由がある。オーストラリアでは09年にO-157が大流行し、カンガルー肉の最大の輸入国だったロシアが輸入禁止を表明。その後、カンガルー肉は厳密な検査の対象となっているのだ。

 O-157感染の懸念はカンガルー肉の輸出業界にも深刻な打撃を与え、08年に3840万ドルだった輸出高は10年には1230万ドルにまで落ち込んでいる。

オーストラリア人も食べない商品

 カンガルー肉の中国輸出計画の実現には、ほかにもハードルがある。第一に、カンガルー肉はオーストラリア国民に対してさえ売り込むのが難しい商品だ。ニューヨーク・タイムズが引用した08年の調査では、カンガルー肉をそれと知りながら食べたことのあるオーストラリア人の割合はわずか14・5%だった(牛肉は80%)。

 カンガルーが敬遠されるのは、肉はペットフードに使われ、皮は洋服に加工されることが多いため。
しかも、人口2300万人の国土に2500万頭も生息するカンガルーを、多くの国民が有害でときには危険な邪魔者とみなしている。

 さらに厄介なのは「味」かもしれない。「牛肉にわきがの臭いを加えたような臭みがある」と、オーストラリア出身の編集者フレヤ・ピーターセンは言う。「しっかり火を通す必要があるが、焼きすぎてもいけない。以前にペットの犬と猫に食べさせていたから、ペットフードみたいな匂いを感じる」

 環境保護活動家や動物の権利擁護団体も、カンガルー肉の輸出計画に懸念を募らせている。オーストラリア国内の生息数では「国内とヨーロッパでの消費分さえ賄えない」と、オーストラリア・カンガルー協会のニッキ・サタビーはニューヨーク・タイムズに語った。「中国のような大国がカンガルーを食べはじめたら、対処のしようがない」

 それでも、輸出推進派の勢いが止まることはない。「年内に中国への輸出を開始できると思う」と、ケリーはニューヨーク・タイムズに語った。「中国はいずれ、かつてのロシア以上の消費市場になるはずだ」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中