最新記事

原油

最大産油国サウジアラビアが抱える爆弾

中東の混乱がリビアまで拡大した今、原油市場は安泰だったはずのサウジのリスクにも目を向け始めた

2011年2月22日(火)17時13分
スティーブ・レバイン

アキレス腱 油田や石油関連施設が密集する東部には不安がいっぱい(アラムコのクライス油田) Ali Jarekji- Reuters

 主要な産油国としては初めて、リビアで政権を揺るがす反政府デモが発生した。このニュースに原油価格は急騰し、ガソリン価格の上昇も必至だ。

 リビアの最高指導者ムアマル・カダフィの独裁体制に終わりが近づいているかもしれない。そんな憶測の下、実際の原油供給にはまだ何の支障も出ていないにもかかわらず、投機家たちが原油価格を過去2年の最高値水準まで押し上げている。

 もしも同様の反政府デモがサウジアラビアで起こったら、やはり同じ結果になるだろう(反政府デモが起こる可能性は否定できない)。サウジは世界の原油価格を左右する重要な存在。世界の原油需要の10%をまかない、例えばリビアの日産160万バレルの供給が突然途絶えるような非常事態に備えた臨時の生産能力において、世界トップレベルを保っている。

 アルサウド王家によるサウジアラビア統治は安泰だといわれ続けている(クウェートのアッサバハ家、カタールのアルサーニ家も同様だ)。それでも政権の安定は、原油価格を安定させるためのほんの一条件に過ぎない。

シーア派住民が多い油田地帯

 サウジのアキレス腱は、油田が集中しシーア派住民が多数を占める東部地域だ。ここには国営石油会社サウジ・アラムコが本社を構える都市ダーランがあり、日量500万バレルの超巨大なガワール油田もある。日量80万バレルのカティフ油田とアブサファ油田や、輸出拠点となる巨大なラスタヌラ港、それにアブカイクの石油施設も存在する。

 このためサウジ王は、東部の動きを全て封じ込めるため、アラムコの民間警備員や内務省関係者、国家警備隊、軍隊など、ありとあらゆる人々を派遣してきた。彼らは皆、ほとんどがスンニ派で、王家に忠実な者ばかりだ。

 それでも、もしもシーア派住民が抗議行動を始めるようなことになれば、原油市場に舞台を移して大混乱が待ち受けているだろう。

 アメリカの政治リスクコンサルティング会社ユーラシア・グループのアナリスト、グレッグ・プリディーはトラブルの「流出危機」が明らかに潜在していると言う。「東部地域で暴動が起こっても私は驚かない」とプリディーは言った。

バーレーンやイエメンからの引火も

 シーア派住民の不満以外にも、不安のタネはある。東部地域は隣国バーレーンとたった25キロの土手道でつながっている。バーレーンでも反政府デモが発生しているが、デモ隊代表がハリファ王家と交渉に当たっているため、現在は小康状態だ。それでもバーレーンとサウジ東部地域の両方でシーア派の暴動はたびたび続いている。バーレーンの混乱が伝染し、サウジで暴動を再燃させる可能性がある。

 サウジも隣国の混乱に不安をぬぐえないようだ。その証拠に、229年に及ぶバーレーン王政の崩壊を防ぐためなら「あらゆる手段を使って」介入すると宣言した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、和平巡る進展に期待 28日にトラン

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中