日本の没落から学ぶべき真の教訓
巨額の財政赤字や超低金利もほとんど役に立たなかったのはデフレのせい、という常識は間違っている。
司令塔不在 日本国債格下げにも「疎い」首相と政府に再生シナリオは描けるか(1月24日) Issei Kato-Reuters
今では思い出すのも困難だが、日本は80年代、世界で最も尊敬される経済大国だった。日本人の生活水準はいずれ世界一のレベルに達し、技術革新でも世界をリードしていくだろうと誰もが思った。
だがいま聞こえてくるのは、経済成長が止まった「失われた10年」の二の舞いになるなという警告ばかり。日本の主な過ちは「景気刺激策」を小出しにし、デフレを招いたこと。消費者は将来は価格が下がるという期待から、買い物を控えるようになってしまった──今や一般常識と化した説明だが、これは誤っている。
日本経済の没落が示しているのは、景気刺激策の効果には限界があるということ。デフレの悪影響も、少なくとも穏やかな物価下落に関する限り、誇張され過ぎている。景気浮揚のためには民間の雇用創出や投資に代わる策はなく、日本にはそれが欠けている。それが、われわれの学ぶべき教訓だ。
日本の問題は、アメリカと同じく巨大な資産バブルから始まった。85〜89年の間に株価は3倍になった。主要都市の地価も91年までに3倍になった。
崩壊もまた劇的だった。89年末に最高値を付けた株価は、92年末までに57%下落した。地価は92年に暴落し、今も80年代前半の水準だ。富は減少し、過大評価の土地を担保に融資をしていた銀行は傾き、いくつかは破綻した。90年代の経済成長は年率約1%で、80年代の4%超から大幅に下落した。
大規模な景気刺激策にもかかわらず、20年たった今も成長は戻っていない。日本の対応は遅かったが、教科書どおりの処方箋に従った。財政支出を拡大し、減税し、財政赤字が膨張するに任せた。政府債務の対GDP(国内総生産)比は91年の63%が97年には101%まで上昇。今は約200%に達している。日本銀行は利下げを繰り返し、99年にはゼロ金利を採用。中断もあったが今も続いている。
景気刺激策だけで成長は得られない
デフレでは、この経済停滞を説明できない。日本の消費者物価指数が下落した年は過去20年で9回ある。年平均の下落率は0.6%だ。「1年で価格が0.6%下がるからといって、車を買うのを延期する人はいない」と、日本経済に詳しいニューヨーク大学経営大学院のエドワード・リンカーン教授は言う。もし日本人が本当に消費を先延ばしにしたのなら、家計貯蓄率は上がったはずだ。だが実際の貯蓄率は、91〜08年の間に可処分所得の15.1%から2.3%に減少している。