ジョブズはアップルに戻らない
病気療養で一線を退く伝説のCEOにはもう、やり残した仕事はない
真の革命家 ジョブズは自身が語る夢を次々に現実にしてきた(2010年7月16日) Kimberly White-Reuters
スティーブ・ジョブズが病気療養に専念するために休職する──。1月17日の朝、この発表を聞いて、私はジョブズがアップルに復帰することはないだろうと感じている。といっても、彼の健康状態について内部情報を入手したわけではない。長年アップルを観察してきた経験に基づく推測だ。
1996年にアップルに舞い戻って以来、ジョブズは「コンピュータをテレビやトースターと同じくらい使いやすく、どこにでもある道具にする」という長年の夢を叶えるために会社を引っ張ってきた。彼は見事なまでに成功を積み重ねてきた。そしておそらく、すでに目標を達成してしまった。
テクノロジーの世界はジョブズが語ってきた理想にかなり近づいており、アップルは世界有数のトップ企業に成長した。ジョブズにはもう、やり残した仕事などないのではないか。
私たちが慣れ親しんできたコンピュータには、数々の面倒な操作が不可欠だった。ソフトをインストールし、ウイルスから防御し、ファイルの保管場所を覚えておく。しかも、バックアップをサボっているうちに、突然すべてのデータが消えてしまう──。
だが07年のiPhoneの登場によって、アップルはそんな面倒に煩わされることなく強力なモバイル機器を持ち歩けることを示してくれた。昨年にはiPadを投入し、iPhoneと同じコンセプトをタブレット型端末にも応用するという、同業他社がずっと越えられなかったハードルも越えてみせた。
アップルの次の狙いは、このコンセプトをパソコンに応用することのようだ。同社は1月上旬、マック向けのアプリケーションストア「マック・アップストア」を開設。5年もすれば、iPhoneに負けないくらい、いつでも使える手間いらずのマシンに変貌しているはずだ。
ライバル企業もアップル流から逃れられない
ジョブズの功績は、コンピュータの心臓部を革命的に進化させたことだけではない。さまざまな機器を購入し、使い続ける方法にも革命を起こした。アップルが01年以降、各地にオープンさせてきたアップルストアは、小売業界随一の売り上げを誇る。
アップルストアが支持される理由の1つはジーニアス・バー。すべてのユーザーが永久的に無料で専門的なアドバイスを受けられる窓口で、お粗末なカスタマーサービスしか提供してこなかったIT業界では画期的なサービスだ。
小売り関連でジョブズが飛ばしたヒットは、他にも数多くある。iTunesストアは音楽配信、アップストアはモバイル機器用アプリのプラットフォームとして絶大な人気を誇っている。