最新記事

経営者

ジョブズはアップルに戻らない

病気療養で一線を退く伝説のCEOにはもう、やり残した仕事はない

2011年1月18日(火)18時58分
ファーハッド・マンジョー

真の革命家 ジョブズは自身が語る夢を次々に現実にしてきた(2010年7月16日) Kimberly White-Reuters

 スティーブ・ジョブズが病気療養に専念するために休職する──。1月17日の朝、この発表を聞いて、私はジョブズがアップルに復帰することはないだろうと感じている。といっても、彼の健康状態について内部情報を入手したわけではない。長年アップルを観察してきた経験に基づく推測だ。

 1996年にアップルに舞い戻って以来、ジョブズは「コンピュータをテレビやトースターと同じくらい使いやすく、どこにでもある道具にする」という長年の夢を叶えるために会社を引っ張ってきた。彼は見事なまでに成功を積み重ねてきた。そしておそらく、すでに目標を達成してしまった。

 テクノロジーの世界はジョブズが語ってきた理想にかなり近づいており、アップルは世界有数のトップ企業に成長した。ジョブズにはもう、やり残した仕事などないのではないか。

 私たちが慣れ親しんできたコンピュータには、数々の面倒な操作が不可欠だった。ソフトをインストールし、ウイルスから防御し、ファイルの保管場所を覚えておく。しかも、バックアップをサボっているうちに、突然すべてのデータが消えてしまう──。

 だが07年のiPhoneの登場によって、アップルはそんな面倒に煩わされることなく強力なモバイル機器を持ち歩けることを示してくれた。昨年にはiPadを投入し、iPhoneと同じコンセプトをタブレット型端末にも応用するという、同業他社がずっと越えられなかったハードルも越えてみせた。

 アップルの次の狙いは、このコンセプトをパソコンに応用することのようだ。同社は1月上旬、マック向けのアプリケーションストア「マック・アップストア」を開設。5年もすれば、iPhoneに負けないくらい、いつでも使える手間いらずのマシンに変貌しているはずだ。

ライバル企業もアップル流から逃れられない

 ジョブズの功績は、コンピュータの心臓部を革命的に進化させたことだけではない。さまざまな機器を購入し、使い続ける方法にも革命を起こした。アップルが01年以降、各地にオープンさせてきたアップルストアは、小売業界随一の売り上げを誇る。

 アップルストアが支持される理由の1つはジーニアス・バー。すべてのユーザーが永久的に無料で専門的なアドバイスを受けられる窓口で、お粗末なカスタマーサービスしか提供してこなかったIT業界では画期的なサービスだ。

 小売り関連でジョブズが飛ばしたヒットは、他にも数多くある。iTunesストアは音楽配信、アップストアはモバイル機器用アプリのプラットフォームとして絶大な人気を誇っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏極右バルデラ党首「27年大統領選候補に」、ルペン

ワールド

ガザ、物資搬入ルートの閉鎖続き食料備蓄が底を突く=

ビジネス

銀行業務分離規制廃止を、英銀トップが連名で政府に書

ビジネス

米ドアダッシュ、英デリバルーに36億ドルで買収提案
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中