ハフィントン流最強ニュースサイトの作り方
ウェブメディアの女王が切り開くオンライン・ジャーナリズムと商売のきれいごとじゃない未来
重鎮 マルチな活動で数字では見えない存在感をもつアリアーナ・ハフィントン(10年4月) Phil McCarten-Reuters
もし今日のインターネットメディア業界の勝者を決めるとすれば、断トツでアリアーナ・S・ハフィントンだろう。彼女が創設したニュースサイト、ハフィントン・ポストの6月のユニークビジター数(同じ閲覧者の重複を省いて集計したサイト訪問者数)は2439万に達した。他の多くのネットメディアと比べれば5倍近く。ワシントン・ポストやUSAトゥデーのサイトを上回り、ニューヨーク・タイムズ電子版にも迫る勢いだ。
2010年のハフィントンの売り上げは約3000万ドルに達する見込み。既存の巨大メディアに比べれば取るに足りない額だが、ネット上のライバルの多くよりははるかに大きい。そして遂に、わずかながら利益も出始めた。
ただしネットメディア業界における存在感は、数字だけでは分からない。5年ほど前、アリアーナと友人の左派系著名人たちが、ブッシュ政権への怒りをぶちまける場としてスタートしたこのサイトは今、ウェブ上で最も重要なニュースサイトの1つになった。
ハフィントンは、香水の広告でトップレスになった女優ジェニファー・アニストンの写真のようにアクセスを稼ぐためのゴシップネタも多く扱いながら、他方では政治からスポーツ、ビジネスからエンターテインメントまであらゆる分野のニュースを網羅している。このサイトの使命は「重要な問題について国民的議論の場を提供する」ことだと、アリアーナは言う。
7月のニューヨーク。60歳の誕生日を迎えたあるじめじめした日の午後、アリアーナはソーホー地区のビルの3階にあるハフィントン本社で、サンペレグリノのミネラルウオーターを飲み、リンゴのスライスをかじっていた。
しょっちゅう出入りするアシスタントたちは、チョコレートや伝言、アリアーナの元夫で元下院議員(共和党)のマイケル・ハフィントンからの電話がつながったブラックベリーなどを持ってくる。
製作費を究極まで下げる
アリアーナは、広告に関する会議での講演から戻ったばかり。講演は年間100回以上。彼女をネットメディア時代の救世主、ブログの女王、ジャーナリズムの未来の開拓者などと敬うテクノロジー関係者や出版関係者からひっきりなしに依頼が舞い込む。
だがハフィントンの経営状態をもう少し詳しく知ると、アリアーナが開拓しているジャーナリズムの未来が極めて厳しいものだと分かってくる。ハフィントンには多くの読者がいるが、他のほとんどのサイトと同じく、読者から収入を上げるうまい方法がない。
ハフィントンは今、年間に読者1人当たり1ドルしか稼いでいない。既存の主流メディアに取って代わるなど夢のまた夢だ。何しろケーブルテレビ局や新聞は、1人の視聴者や定期購読者から年数百ドルを集め、その上に数千万ドルの広告収入を稼いでいる。
もちろん単純には比較できない。テレビや新聞はウェブサイトと比べればはるかに固定費が高い。それでも収入の桁違いの開きを見ると、現在進行中の変化がいかに過激なものかが分かる気がする。
既存メディアも、売り上げの減少に悩んでいる。本誌(米国版ニューズウィーク)も業績不振で親会社のワシントン・ポスト・カンパニーから売りに出されているから、その激震ぶりはよく分かる。