最新記事

米経済

ブラジルの買収攻勢はアメリカの救世主

中ロよりは反発が少なく、買収先もハイテクよりオールドエコノミー志向と、アメ リカにとって好都合なことだらけ

2010年6月24日(木)18時02分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

ローテクが得意 アメリカの食肉大手を次々と買収しているJBSの精肉工場(サンパウロ) Paulo Whitaker-Reuters

「ブラジルとインドは要マークだ」と、あるアメリカの消費財大手企業(フォーチュン上位500社にも入っている)のCEO(最高経営責任者)が私に言ったのは数カ月前のこと。

 サッカーのワールドカップ(W杯)の話をしているのではない。「次にアメリカの資産を買いあさろうとしているのはどこの国の投資家か?」という問いへの答えだ。

 ほんの数年前まで、経済アナリストが恐れていたのはペルシャ湾岸諸国や中国の政府系ファンド(SWF)が戦略を転換し、投資の対象を米国債から米企業へと変えるという事態だった。だがバブル期の多くの企業買収が失敗に終わったことから、SWFはアメリカ市場参入にやや及び腰となっていた。

 だが最近、ブラジル勢がアメリカに本格参入する気配を見せている。6月15日、ブラジルの食肉大手マルフリグ・アリメントスは、米キーストーン・フーズを12億5000万ドルで買収することで合意。これによりマルフリグは、サブウェイやマクドナルドといったアメリカを代表するファストフードチェーンの主要な納入業者となる。

 トムソン・ロイターの報道によれば、ブラジル企業が米企業(もしくはその資産)を買収した例は昨年10月以降8件に上るという。実際にはもっと多いかもしれない。

ビールや食肉、化学などが主体

 今はブラジル企業にとって投資を始める好機だ。中産階級の増加や順調な一次産品市況、中国との貿易に支えられ、ブラジル経済は世界的な経済危機をくぐり抜け力をつけてきている。

 やりたい放題の投機が行なわれたにも関わらず、金融システムは崩壊しなかった。大手企業のバランスシートは健全で、通貨レアルの対ドル相場も高くなっている。

 世界中のリーグで活躍するブラジルのサッカー選手に負けじと、ブラジル人経営者たちも積極的に世界に打って出るようになってきた。KPMGが世界17カ国の企業幹部について調べたところ「来年の世界経済の行方について世界で最も楽天的なのはブラジルの経営者」との結果が出たという。

 これまでのところ、企業買収の対象は古い業界の大企業が中心だ。ビール会社や精肉業、石油、化学といった、鉄道網が発達した1980年代に全米規模に成長したタイプの企業だ。

 ブラジルの食肉大手JBSは去年の秋、米食肉加工大手のピルグリムズ・プライドを8億ドルで買収。今年1月には米スイフトを14億ドルで傘下に収めた。JBSはアメリカにおいて非常に大きな存在感を示している。

 同じく1月にブラジルの石油大手ペトロブラスは米デボン・エナジーの所有するカスケード油田(メキシコ湾)の採掘権の一部の譲渡を受けた。2月、ブラジルの樹脂メーカーであるブラスケンは米スノコ・ケミカルズのポリプロピレン事業を3億5000万ドルで買収した。

 4月には政府系のブラジル銀行がアメリカにおけるリテール業務の認可を得た。「今後5年間にアメリカ国内に15支店を新規にオープンする。業務拡大のために地域の小規模な銀行を買収することも考えている」と、ブラジル銀行の国際問題担当副社長のアラン・トレドはダウ・ジョーンズに語った。

ウォール街はポルトガル語を習え

 BRIC(ブラジル、ロシア、インド、中国)のうち、ブラジルからの投資であれば、他の3カ国からの投資よりもアメリカのナショナリストや新聞の論説委員の受けはいいだろう。

 タカ派色が強い地域では、中国企業がアメリカの技術や石油企業をカネで買っているとの危機感が高まっている。米財務省は、ロシア企業がインターネットサービス大手のアメリカ・オンライン(AOL)からインスタントメッセージサービス部門のICQを買収しようとしていることに懸念を表明している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBの金融政策、「漸進主義」が奏功=レーン理事

ビジネス

ECB、段階的な利下げを 慎重姿勢維持必要=独連銀

ワールド

NY南部連邦地検トップが辞任へ、FTX関連など著名

ワールド

G7、共通の見解模索 ネタニヤフ氏逮捕状発行で=伊
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 3
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 4
    テイラー・スウィフトの脚は、なぜあんなに光ってい…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 7
    日本株は次の「起爆剤」8兆円の行方に関心...エヌビ…
  • 8
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 9
    またトランプへの過小評価...アメリカ世論調査の解け…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中