最新記事

投資

次のフロンティア市場はイラク?

危険だからこそ投資家を引き付ける魅力は大きく、世界最大の産油国になるシナリオには現実味がある

2010年6月23日(水)15時12分
バートン・ビッグズ(ヘッジファンド「トラクシス・パートナーズ」マネジングパートナー)

 いま投資家が群がっているのが新興国市場なら、次に巨額の資金が向かうのは手付かずの「フロンティア市場」だ。新興国の優等生になったブラジルや中国も、20年前はあまりに不安定で、まともな投資家なら歯牙にもかけなかった。それが今ではあらゆる機関投資家の金融資産の基盤になっている。

 身の危険を感じるような国なら、うまみも大きい。流行後追いの駄目投資家が手を出さないからだ。今のバングラデシュやナイジェリアのように、フロンティア市場と認知されてから動いても遅い。

 この市場に新たに仲間入りしたのがイラク。危険なことは間違いない。先日、物好きなフロンティア投資家に交じって友人がイラクに出掛けた。完全武装したアルバイトのイラク兵8人に付き添われ、投資家一行は身震いしながら重装備の装甲車で各地を視察。50口径の機関銃を装備したピックアップトラックが護衛に付き、自動車爆弾の危険次第で旅程も変更される。それでも帰国した友人は興奮で震えていた。

 イラクは中東では比較的大きく、チグリス川とユーフラテス川で潤う肥沃な三日月地帯に3200万人が暮らす。首都バグダッドは9〜13世紀にイスラム世界の学問と政治の中心地だった。湾岸戦争前までは、活気あふれる街に優れた美術館や病院、ホテル、飲食店が立ち並び、中東で最も国際色豊かな都市だったかもしれない。

食料輸出国に返り咲く日は近い

 国民の教育水準は常に高く、資本主義的で起業家精神に富んでいた。85年当時の識字率は100%(現在はおそらく低下)。女性は比較的解放されていて、雇用率も高い。労働者の5人に1人が農業に従事し、小麦や大麦、野菜などを栽培。イラクが食料の主要輸出国に返り咲く日も近いだろう。

 フセイン時代同様、イラク政府発表の経済データは眉つば物だが、失業率は15%、昨年のGDP(国内総生産)は前年比4.3%増の1120億ドルだったとされる。国民1人当たりGDPは3600ドルと世界第159位に甘んじているが、それだけ伸びしろが大きいということだ。インフレ率は6.8%で中央銀行は通貨イラクディナールの安定に成功している。

 復興に伴い内需も盛り返している。セメントの年間生産能力は現在400万トンだが、需要は600万〜1000万トンもある。80年のピーク時には、国内生産は2800万トンだった。

 成長の可否は石油資源の埋蔵量に懸かっている。公式な確認埋蔵量は原油が1150億バレル、天然ガスが3兆1700億立法メートルだが、探査は事実上10年間行われていない。イラク戦争で5000人近いアメリカ人が死亡したが、原油の探査と開発で主導権を握るのはどうも中国らしい。

 10年もすればイラクが原油と天然ガスの輸出国としてトップ3の一角を占める公算は高い。原油生産のコストの低さでも優位に立つのは確実。メキシコ湾では70ドル掛かる原油1バレル当たりの開発費用は、ここではわずか3ドルだ。

石油ブームなら株価急騰

 国際石油企業は日量1000万バレルの追加生産分の開発事業を既に落札しており、イラクの石油相は6年以内に生産にこぎ着けたいとしている。そうなればイラクは世界最大の産油国になるだろう。インフラ(社会基盤)が未整備なためその日程は非現実的だが、基本路線には現実味がある。イラクが次のサウジアラビアになると言っても過言ではない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

インタビュー:「目にみえる」核抑止、米新政権と早期

ビジネス

街角景気7月は1.5ポイント上昇、プラス要因が円安

ビジネス

午後3時のドルは142円後半へ反発、米金利高で雇用

ワールド

ベトナム、台風11号関連の死者35人・24人不明 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本政治が変わる日
特集:日本政治が変わる日
2024年9月10日号(9/ 3発売)

派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元で7ゴール見られてお得」日本に大敗した中国ファンの本音は...
  • 3
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が増加する」農水省とJAの利益優先で国民は置き去りに
  • 4
    メーガン妃が自身の国際的影響力について語る...「単…
  • 5
    ロシア国内の「黒海艦隊」基地を、ウクライナ「水上…
  • 6
    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…
  • 7
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 8
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 9
    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…
  • 10
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つ…
  • 5
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 6
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 7
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 8
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 9
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 10
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中