最新記事

企業

マイクロソフト斜陽の言い訳はもう尽きた

株式時価総額でアップルに抜かれたのは「バカな投資家」のせいではなく、CEOのバルマーが無能なせいだ

2010年6月1日(火)16時03分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

失地回復? 大失敗だったビスタの後継OS、ウィンドウズ7を宣伝するバルマー(09年10月) Mark Blinch-Reuters

 株式時価総額でアップルに抜かれた事実について、マイクロソフトはどんな言い逃れを考え出すのだろう。過去数年間にオフレコで聞いた同社の非公式な見解に従えば、悪いのは移り気な投資家のほうだ。アップルの派手な宣伝や消費者の熱狂に惑わされて、マイクロソフトの偉大さが見えなくなっているのだ(Newsweekは、マイクロソフトとNBCユニバーサルの子会社であるポータルサイト、msnbc.comと業務提携関係にある)。

 だがニューヨーク・タイムズ紙の劇的な株価チャートなどを見ると、かつてあれほど強大だった会社がどうしたらこれほどあっという間に落ちぶれてしまえるのか、考え込まずにいられない。

 CEO(最高経営責任者)のスティーブ・バルマーがいい仕事をしている、という主張ももう限界だろう。

 昨年私は本誌のコラムで、00年1月にバルマーがCEOに就任してからの10年間で、マイクロソフトがいかにダメになったかを解説した。

 さらにそのすぐ後には、バルマーは2010年に解任されると予測した

新市場には乗り遅れっぱなし

 私は分かりきったことを言ったに過ぎない。バルマー指揮下のマイクロソフト株はくず同然だった。07年1月に発売したパソコンの基本ソフト(OS)、ウィンドウズ・ビスタは大失敗に終わった。グーグルのネット検索、アップルのデジタル音楽、フェースブックのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)など、この10年間に出現した重要な新市場にはほぼ例外なく乗り遅れた。かつてマイクロソフトはスマートフォン向けのOSで先頭を走っていたが、今はその他大勢の一社に過ぎない。

 マイクロソフトが本社を置くシアトルのシアトル・ポスト・インテリジェンサー紙は、私の批判に対してバルマーを擁護した。ビスタの次のOS、ウィンドウズ7は成功だったこと、グーグルに対抗する検索サービス、Bing(ビング)が好調なことなど、バルマーの功績を列挙している。

 だが反響としてより大きかったのは、マイクロソフトの広報責任者からのもの。彼は私の予測を「悪意に満ちた仕業」と呼び、以来ほとんど口もきいてくれなくなった。毎年恒例になっているマイクロソフトとジャーナリストの2日間のオフレコ懇親会も、どういうわけか今年は招待状が届かなかった。ワォ!

 だが真面目な話、マイクロソフトは今更いったい何を抗弁しようと言うのだろう? 彼らはもう何年も、悪いのは市場のほうだと言ってきた。投資家はバカだから、バルマーの下でマイクロソフトがどれほど栄えてきたかが見えないのだ、と。

 バルマーがCEOに就任した直後、数カ月にわたってマイクロソフト株が大幅に下落したときも、これはバルマーのせいではなく経済のせいだと言い張った広報担当者がいた。その時のセリフはこうだ。「バルマーのCEO就任があと数カ月遅ければ、株価は下がらなかった。横ばいだったはずだ」

 横ばいとは! いずれにしろ威張れた実績ではない。

追い詰められたバルマー

 おそらく何か手を打つ必要があると感じたのだろう。マイクロソフトは5月26日、エンターテインメント&デバイス部門担当プレジデントのロビー・バックと、デザイン&デベロップメント部門担当CTO(最高技術責任者)のジェイ・アラードが退職したと発表した。2人とも、携帯電話やビデオゲームなど消費者寄りの製品の開発を担当していた「ビジョナリー(先見の明がある)」タイプだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏航空管制官がスト、旅行シーズンに数百便が欠航

ワールド

ウクライナ・米首脳が4日に電話会談、兵器供給停止が

ワールド

インドネシア、340億ドルの対米投資・輸入合意へ 

ワールド

ベトナム、対米貿易協定「企業に希望と期待」 正式条
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 10
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中