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オバマの薄っぺら金融改革演説

金融規制改革についてのオバマ演説は政治ショーとしては完璧だったが、詳細に欠け具体的な展望も見えてこない

2010年4月23日(金)17時20分
ナンシー・クック

詳細は語らず 高まるウォール街批判の波に乗りたいオバマだが(4月22日、ニューヨーク) Natalie Behring-Reuters

 4月22日午前にニューヨークのクーパー・ユニオン大学で行なった演説で、バラク・オバマ米大統領は高まるウォール街批判に乗じる姿勢を見せた。現在上院で審議中の金融規制改革法案について、政治家や金融業界に成立を妨害しないよう呼びかけたのだ。

「あなた方のビジネスが人々を食い物にして成り立っているのでない限り、新しい規制を恐れる理由などないはずだ」と、オバマは約700人の聴衆に向けて話した。その中には、証券詐欺罪で米証券取引委員会(SEC)に16日に訴追された米金融大手ゴールドマン・サックスの幹部2人の姿もあった。

 オバマのこのくだりや共和党批判は聴衆から喝采を受けたものの、演説自体は詳細を欠くものだった。オバマは「多くの金融市場に透明性を」もたらすと述べたが、その方法は明らかにしなかった。また、「かつてないほど手厚い消費者保護を実現する」と話したが、新設が提案されているものの共和党からの反対が根強い消費者金融保護庁(CFPA)については、その名前にさえ触れなかった。

 オバマは医療保険制度改革法案のときと同じように、(少なくとも今回の演説では)民衆を盛り上げるだけで満足し、核心部分の詳細や金融改革の行く末については議会に任せているようだ。

 一方で、演説は政治ショーとしては良い出来だった。まずは、演説が行なわれた場所。クーパー・ユニオン大学は1859年にニューヨークの企業家によって設立され、1年だけ正式に運営された後は授業料が無料で開放された。こうした歴史的背景に加え、大学の場所がウォール街に近いこと、さらにワシントンの政治に対するニューヨーカーの根深い軽蔑心を考えると、今回のようなポピュリスト的な演説にはぴったりの舞台だったといえる。

金融関係者もフォロー

 こんな経済状況下で、規制に反対できるものならしてみろ----ウォール街の金融関係者にそう挑むような部分も演説の中にはあった。またある部分では、原稿にないアドリブで彼らをフォローもした。一般の人々にもたらす影響について見て見ぬふりをするほど、すべての金融関係者が冷酷だったわけではないと。

「ウォール街の一部の人間が------あくまで全員ではなく一部の人間が----忘れてしまっている。取引される1ドル1ドル、運用される1ドル1ドルの背後には、家を買いたい、教育資金を支払いたい、事業を起こしたい、引退後の生活に蓄えたい、と願う人々がいるのだということを」

 演説が終わりに近づき聴衆が盛り上がるなかで、オバマは1933年のタイム誌の記事について触れた。当時、ニューヨークの銀行家たちがある法案を「過激な警告」だと感じていたという記事だ。彼らは、当時可決されたばかりのある法案が「プロとしての自分たちのプライドを奪うだけでなく、アメリカのすべての銀行を最低レベルに押し下げる」と考えていたという。

 その法律とは、すべてのアメリカ人の銀行預金を守る米連邦預金保険公社(FDIC)を設立するものだった、というのが話のオチだった。

 演説が終わってもオバマはしばらくステージ上にとどまり、笑顔を振りまいては聴衆に手を振ってみせた。
 
 ばつの悪い思いで出席していた金融関係者の1人、ゴールドマンのロイド・ブランクファインCEO(最高経営責任者)は、そそくさと会場を後にした。だが人の波で身動きがとれず、ブランクファインは階段で立ち往生。「出口」に向かうまでに何分も待たなければならなかった。ちょうど、ほかの一般聴衆と同じように。

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