最新記事

新興経済

「次の中国」アフリカ経済の実力

何もかも足りない大陸に生まれた3億人の新たな中流層の途方もない需要が、目がくらむほどのビジネスチャンスを生み始めた

2010年4月12日(月)12時53分
ジェリー・クオ

 高い経済成長といえば中国とインドにばかり目がいくが、いつも見落とされているもう1つの世界的成長株がある。アフリカだ。

 国民1人当たりのGDP(国内総生産)で07年と08年、中国、インドと並ぶ成長を実現した地域がアフリカには3つある。アフリカ南部、ビクトリア湖を囲むケニア・タンザニア・ウガンダ3カ国の大湖畔地域、それに干ばつに苦しむアフリカ東端のソマリア半島(別名「アフリカの角」)だ。

 世界が景気後退のどん底にあった09年、アフリカ大陸の成長率は2%近くあった。中東とほぼ肩を並べ、中国とインドを除くすべての地域を上回る数字だ。

 IMF(国際通貨基金)の最新の見通しによると、10年と11年には、アフリカは年率4.8%で成長する。アジア以外では最も高く、ブラジル、ロシア、メキシコ、東欧諸国など他の新興国を上回る。実際、国民1人当たりの所得で見ればアフリカは既にインドより豊かだし、中国より豊かな国も10以上ある。

 さらに驚くべきは、この成長の主たる原動力が原油やダイヤモンドなどの資源輸出ではなく、内需の急拡大だということ。アフリカの内需の規模は、中国とインド以外の新興国中で最大。過去4年間のアフリカのGDP成長の3分の2は、モノやサービスに対する民間消費の急増によるものだ。

 中流層の台頭も著しく、アフリカの人口10億人のうち最大3億人に上ると、『アフリカ 動きだす9億人市場』(邦訳・英治出版)の著者で開発の専門家ビジャイ・マハジャンは言う。

 アフリカの中流層はアジアや欧米の中流層ほどの可処分所得は持たない。だが会計士から教師、メード、タクシー運転手から露天商までが一丸となり、携帯電話や銀行口座、高級食材や不動産などへの需要をつくり出している。

留学組が帰国して起業

 実際、アフリカのGDP上位10カ国では、成熟の証しであるサービス産業がGDPの40%に達し、インドの53%に迫っている。「アフリカの新しいキーワードは消費だ」と、アフリカ17カ国に拠点を持つスタンダード銀行グループ(南アフリカ)の未公開株投資責任者グラハム・トーマスは言う。

 新しい消費層の繁栄の背景には、外的要因もある。中国からの需要増を受けた貿易構造の進化や、アフリカと先進国を結ぶ光ファイバーケーブル網のように、先進国発の技術革新がアフリカの生産性と成長を刺激する場合などがそうだ。

 だがアフリカ自身の意図的な変化もある。アフリカといえば汚職や統治の欠如で悪名高いが、建国以来初めての政治的安定に力を得て人知れず経済ルネサンスの花を開かせた国がたくさんある。

 積極的な投資家の後押しで、各国政府も着実に産業の規制緩和を進めインフラを整備した。その結果、ケニアやボツワナのような国々は今や、世界水準の民間病院、私立学校、銃撃される心配のない有料道路などを誇っている。

 世界銀行のアフリカ国別インフラ評価(AICD)プログラムによれば、アフリカの通信インフラ整備は1人当たりのGDP成長を少なくとも1%押し上げている。金融政策や財政政策の変更より大きな寄与率だ。最近民営化された航空会社や運送会社、通信会社など、インフラ関連の株価も急騰している。

 国外で教育訓練を受けて帰国した人材を中心に、起業家精神も旺盛だ。90年代、中国やインドの国外留学組が起業のために帰国して、国外からさらなる人材と資本を引き寄せたように、アフリカでも国外から帰国した起業家たちが大陸をつくり替えようとしている。

 最貧国のブルンジやマラウイなどでは今も慢性的な頭脳流出が続いているが、ガーナ、ボツワナ、南アフリカなど経済活力にあふれた国では、前例のない頭脳「流入」が始まっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中