最新記事

ハイテク

アップルが携帯業界を乗っ取る日

シリコンバレーが多機能端末を武器に顧客の囲い込みを狙っている

2010年3月11日(木)14時02分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

 こんなふうに考えると、今のハイテク業界のトレンドが分かりやすくなる。

 ある日、シリコンバレーの業界関係者が携帯電話業界に目を付けた。通信事業者は実にうまい商売をやっている! 彼らは携帯電話機を売り、顧客を2年間の契約で縛る。顧客が着メロやゲームなどを使いたければ、通信事業者を通して買わなければならない。

 通信事業者はすべてを支配する。端末1台を売って終わりではなく、その後もずっと懐に収入が流れ込む。「われわれもこの手を使わなくては!」とシリコンバレーの業界関係者は考えた......。

 シリコンバレーは携帯電話業界をすっかり気に入ってしまったらしい。アップルやグーグルは徐々に、だが確実に通信事業者から支配権をもぎ取ろうとしている。

 今まで携帯電話機メーカーは電話機を作るだけで顧客との接点を持てなかった。だがグーグルとアップルはスマートフォン(高機能携帯電話)を武器に業界の力関係を逆転させようとしている。

端末側からの囲い込みへ

 ゆくゆくは電話機メーカーのほうが顧客を囲い込み、あらゆるアプリケーションとアクセサリーを売るようになるだろう。通信事業者は物言わぬパートナーとして電話を回線につなぎ、毎月の料金を徴収するだけになる。最終的には、顧客は自分で通信事業者を選べるようになるだろう。

 だが嫌な予感もする。1つの牢屋から出て別の牢屋に入るだけなのではないか。違うのは看守の名前だけかもしれない。

 携帯電話業界に初めて新風を吹き込んだのは07年にアメリカで発売されたアップルのiPhoneだ。この魅力的な新型スマートフォンをどうしても取り込みたかった電話会社大手AT&Tは既得権益の一部をアップルに譲った。アップルの直営店でもiPhoneを販売することを認めたのだ。

 さらに重要なことは、iPhone用のアプリケーションを販売するのがAT&Tではなく、アップルだということ。同社はiPhone用アクセサリー販売にも本格的に乗り出した。要するに、iPhoneの世界を支配するのはAT&Tではなくアップルなのだ。

 小型情報端末iPadを3月下旬に発売することで、アップルはさらに1歩前進することになる。無線LANが使える場所なら、あらためて通信事業者と契約することなく、iPadでウェブサイトを閲覧したり、動画を見たり、本や新聞を読んだりできる。

 携帯通信機能を持つiPadも少し遅れて発売される予定。こちらはAT&Tの回線を使うことになる。だが普通の携帯電話とは違って長期契約の縛りはない。支払いは月ごとで、いつでもキャンセルできる。しかも安い。データ転送量に制限があるプランで14・99ドル、無制限プランで29・99ドルだ。

 iPadにはさらに画期的な点がある。1つの通信事業者の回線しか使えない「SIMロック」が掛かっていないのだ。ユーザー側の力が強まっていく兆しが見える。

 アップルに負けていないのがグーグル。同社が10年1月に発売したスマートフォン「ネクサス・ワン」もロックは掛かっていない。グーグルの携帯向けOS(基本ソフト)「アンドロイド」搭載で、529ドルのモデルなら好みの通信事業者を選べる(Tモバイルとの契約付きなら179ドルだが、2年契約という縛りがある)。

 アップルのiPhone同様、グーグルは顧客とのつながりを重視し、囲い込みを図ろうとしている。グーグルがアンドロイド搭載端末を普及させようとしている背景には、Gメールやグーグルマップなど自社サービスの利用者を増やすという意図がある。さらに、ユーザーが他社のアプリケーションを使いたければ、グーグルが運営する「アンドロイドマーケット」で入手することになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国5月製造業PMIは49.5、2カ月連続50割れ

ビジネス

アングル:中国のロボタクシー企業、こぞって中東に進

ワールド

トランプ氏、鉄鋼・アルミ関税50%に引き上げ表明 

ワールド

日鉄は「素晴らしいパートナー」とトランプ氏、買収承
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 6
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 7
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 8
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 9
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 10
    第三次大戦はもう始まっている...「死の4人組」と「…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 4
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 10
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中