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盲点はトヨタ生産方式にあった?

トヨタを世界一に押し上げた自慢の生産方式への過信が危機を深刻化させた

2010年2月10日(水)17時53分
マシュー・デボード(フリーランス記者)

品質の原点 現場が声を上げにくい空気はあったのか(写真はカナダのRAV4製造工場) Mark Blinch-Reuters

 2月5日のニューヨーク・タイムズ紙にトヨタの経営文化の崩壊についてのコラムを書いたところ、フィナンシャル・タイムズ紙オンライン版が反論を掲載した。
 
 私はコラムの中で、トヨタ生産方式に問題があると指摘した。無駄を省き、カイゼンを重ねるトヨタ生産方式を武器に、同社は業界トップに躍り出た。だが、自慢の生産方式への盲目的な追随と過信によって、現場で不備が見つかってもそれを認めたがらない空気が生まれたのではないかという指摘だ。

 これに対して、フィナンシャル・タイムズのステファン・スターンは次のように論じている。


 この指摘は正しくない。トヨタ生産方式は順調だが、同社は過去10年間に成し遂げた驚くべき成長のプレッシャーに苦しんでいる。経営陣は傲慢かもしれないし、タイヤのスリップがよくあることだと認める勇気がないのかもしれない。だが生産ラインの現場では、従業員は問題を正確に把握できていたと思う。それがトヨタウェイだ。


 この議論こそ、トヨタがかかえる真の問題を示唆している。それは、業界トップに上り詰めることでトヨタ生産方式が強化されたと同時に、傷つけられたという課題だ。

需要急回復に迅速に対応できない

 トヨタは、必要なものを必要なときに必要な量だけ調達・生産・供給する「ジャスト・イン・タイム生産方式(カンバン方式)」によって在庫の最小化をめざしてきた。私はこの方式について、次のような仮説をもっている。

 市場が順調に成長し、需要が強いときには、このアプローチは有効だが、景気低迷を経て需要が回復し、複雑な部品調達システム全体を再び始動させなくてはならない状況では、かえってマイナスになるという仮説だ。ジャスト・イン・タイム方式を採用していないメーカーは、在庫があるおかげで迅速に対応でき、それまで積み上がってきた繰り延べ需要に応えることができる。

 私のこの理論は、需要が激減して回復に転じる前までは、トヨタ生産方式が問題なく順調に機能していたという前提に基づいていた。世界一の自動車メーカーになるという目標が逆にトヨタ生産方式を傷つけているという可能性は想定していなかった。

 現場の従業員は本当に、問題を正確に把握していたのかもしれない。だとしたら、彼らが声を発さない(あるいは、発言を禁じられている)のは、トヨタ生産方式への盲目的な信頼とトヨタウェイのせいではなかったか。

*The Big Money特約
http://www.thebigmoney.com/

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