「クラウド化」安全神話の崩壊
グーグルへの中国サイバー攻撃問題で、クラウド・コンピューティングの意外な弱さが露呈した
揺らぐ信頼 都合よく発言を翻すグーグルに、本当に重要なデータを任せられるのか Jason Lee-Reuters
世の中はクラウド化に向かっている----IT専門家はそう言い続けている。クラウドとはクラウド・コンピューティングのこと。ユーザーがデータを自分のパソコン内ではなく遠く離れた場所にあるサーバー上に保存するというシステムだ。
クラウド化にはいくつかの利点があるが、なんといっても優れているのは、どのファイルが自宅のマックに入っていてどのファイルを会社のデルに入れたのか把握しておかなくてもいいとうところだろう。
だが、グーグルが検閲やサイバー攻撃を理由に中国からの撤退を示唆している騒動で、クラウド化の決定的な問題が明るみに出た。データが安全ではないということだ。
クラウドは完全に安全だとグーグルは主張する。クラウド化で商売をしようとしているのだから、そう言うのは当たり前だろう。
グーグルは、ワープロソフトや表計算ソフトを含む一連のオンライン上のプログラム「グーグル・アップス」を、マイクロソフト・オフィス以上に優秀で安価な代用品として売り出している(データはグーグルのサーバーに保存される)。さらに、従来のメールサーバーを利用するよりも安く便利に使えるとして、自社のGメールを勧めている。
自社の知的財産すら守れないのに
グーグルがそれほど安全ならば、なぜ中国のハッカーは同社のサーバーに侵入して知的財産を持ち出すことができたのか。グーグルは盗まれた情報の詳細を明らかにはしないが、自社の知的財産も守れないような会社が、どうやってユーザーのデータを守れるというのだろう。
サイバー攻撃によって消費者のグーグルに対する信頼は高まったと、同社の広報は主張する。「アップスの顧客の多くと話したが、彼らはこれほど高度な攻撃を切り抜けた我々の能力に感心しただけでなく、我々の透明性にも満足していた」
ほとんどすべてのIT企業は、クラウドの流れに乗りたがっている。グーグルはすでに通信大手モトローラやロサンゼルス市を含む200万件の顧客を獲得。IBMやEMC、オラクルなどもクラウド戦略を立てている。ネット小売り大手アマゾンが展開するクラウドのビジネス「アマゾン・ウェブサービス」も成長中だ。マイクロソフトとヒューレット・パッカードもクラウドで提携し、2億5000万ドル規模の投資を行うと1月14日に発表した。
こうしたIT大手は、コンピューターの処理能力や記憶容量を、インターネットを通じてユーザーに貸し出そうと考えている。そうすれば企業は自社でデータセンターを運営する必要がなくなり、公共の電気代を支払うのと同じようにITサービスを購入するという形になる。
電力とITの比較は(昔は各社が自社で発電していものだったが、今では公共の電気を買うのが普通だ)、クラウドに関する包括的な比喩だ。IT専門家ニコラス・カーの著書『クラウド化する世界』ではそう説明されている。
カーは優秀な男だが、この比較には明白な問題がある。情報は電力とはまったくの別物だ。電気は安くてありきたりの商品。誰も他人の電気を盗もうとなどしないし、もし盗まれても気にする人もいないだろう。一方で情報は、企業にとって何より貴重なものかもしれない。
カーの主張によれば、グーグルなどクラウドビジネスのプロバイダーは完璧に安全だと保障することはできないが、それでもおそらく普通の会社が自社サーバーをハッカー攻撃から守るよりは上手に攻撃をかわせるだろうという。