最新記事

債務危機

第2のドバイは欧州のあの国?

ドバイ・ショックで新興諸国のリスクを再評価した投資家が次に逃げ出す市場

2009年12月10日(木)15時12分
ジェリー・グオ

 11月末、ドバイ政府が政府系企業と系列会社の債務繰り延べを要請すると発表したのを受けて、投資家はアブダビやクウェートなど近隣市場から資金を引き揚げた。しかし騒ぎが収まるにつれ、第2のドバイになるのは中東の富裕国ではないことが明らかになりつつある。危ないのはむしろ、重い債務を抱えるヨーロッパの国々だ。

 ブルガリアやハンガリー、バルト諸国はGDPを超える膨大な対外債務に苦しんでいる。公的債務不履行に陥る可能性は低いが(過去10年間ではエクアドルとアルゼンチンのみ)、政府と政府系企業が債務返済を続けられるかどうか、ますます怪しくなっている。

 米債券運用会社ピムコのモハメド・エラリアンCEOによれば、政府のバランスシートの赤信号(短期借入金の多さ、税収不足、流動性の欠如)からすると、次に危ないのは中欧や東欧だ。「ついこの間までは大量の流動資金が投入され、多くの根本的なリスクが目立たなくなっていた」と、エラリアンは言う。「それでも、昨年の危機の影響は残っている」

世界金融危機の最終章が始まる

 今年、新興市場は好調だが、ドバイ・ショックを機に世界金融危機の最終章が始まるかもしれない。昨秋のパニックによる打撃からまだ立ち直り切れていない市場からの「集団脱出」という形で。

 その兆候の1つとして、政府や政府系機関が発行するソブリン債の保証コストが上昇している。特に東欧では昨年以降、急上昇。ラトビアでは5・3%と、現在のドバイに迫る勢いだ。

 以前は堅調だったギリシャやアイルランド、ポルトガルの経済も、東欧の経済と変わらないという見方が増えている。ギリシャは今後1年間に470億ユーロの借り入れが必要だ。既に公的債務がGDP比135%を超え、今年の財政赤字は12・7%とユーロ圏最大であることを考えれば、これは至難の業かもしれない。アイルランドは対外債務がGDP比800%を超え、さらに深刻な状況だ。

 ほんの数カ月前までは景気回復で手っ取り早く儲けようという投資家のおかげで、これらの国は好調に見えた。しかしドバイの債務危機で、こうした国のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)のお粗末さが露呈した。過去の信用収縮では不動産、金融機関、消費者が打撃を受けた。今度は政府の番かもしれない。

[2009年12月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 6
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    日本では起こりえなかった「交渉の決裂」...言葉に宿…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中