最新記事

医療

独社発表「女性版バイアグラ」の効き目

女性の性欲を増進させる夢の新薬は、その気になれない女性と製薬業界の救世主となるか

2009年11月19日(木)19時00分
バーバラ・カントロウィッツ(本誌コラムニスト)

究極の媚薬? 女性の性欲障害には効いても、男性が心を満たしてくれないケースは別かも Jim Young-Reuters

 バイアグラが登場するまで、性的に不能な男性はインポテンツと呼ばれた。それが、今ではED(勃起不全)。絶え間なく流れるテレビCMのおかげで、この呼び名はすっかり普及した。製薬会社によるブランディングが見事に成功した一例だ。

 一方、性欲を感じられない女性に対しては、こうしたイメージチェンジは認められてこなかった。常にセックスしたい女性もいるというのに、なぜその気になれないのか誰も説明できず、疲れきってセックスする気になれない人は不感症だと決めつけられてきた。

 今週、そんな状況を一変させる可能性がある新薬が発表された。性欲の薄い女性をその気にさせるフリバンセリンという薬だ。

 大ヒットの可能性を秘めた新薬を開発したのは、ドイツの製薬メーカー、ベーリンガー・インゲルハイム。当初、抗鬱剤として治験を行った際には、鬱状態を改善できず、成功の見込みは薄かった。だが研究チームは、この薬に興味深い特性を発見した。実験用動物や被験者の性欲を増進する作用がありそうなのだ。

 これは、製薬業界が探し求める夢の薬、女性版バイアグラなのだろうか。全世界で何億兆ドルを稼ぎ出す可能性に魅せられて、ベーリンガー社はヨーロッパとアメリカ、カナダの閉経前の女性2000人近くを対象に臨床治験を行った。彼女たちは性的欲求低下障害に悩んでおり、女性の4人に1人が同じ症状をもっていると言われる。

もう不感症とは言わせない

 今週、フランスのリヨンで開かれた性障害関連会議で、北米での治験の結果が発表された。一日あたり100ミリグラムのフリバンセリンを約6カ月間服用した被験者は、「性的満足を感じた回数」(オーガズムとは限らない)が2.8回から4.5回に増加した(偽薬を投与したグループは3.7回)。また、フリバンセリンを服用したグループのほうが、セックスへの関心が高まったという答えが多かった。

 もっとも、フリバンセリンが販売されるのはずっと先の話だ。米食品医薬品局(FDA)の認可をはじめ多くの基準をクリアする必要があり、そのプロセスに何年もかかる可能性もある。

 それでも、この研究成果が発表されると、女性の性的欲求低下障害の原因や定義をめぐって長年くすぶっている論議に火がついた。性問題の研究者(たいていは男性)はかつて、健康な女性なら男性とまったく同じように、常にセックスのチャンスをうかがっていると信じていた。心の奥に常に性的欲求を秘めていない女性は正常でないとされていた。

 だが近年、女性研究者たちがまったく違う見解を唱えるようになった。ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)の精神科医ローズマリー・バッソンらは、男性の性的経過が基本的に直線状(欲求を感じ、性的に興奮し、オーガズムに達する)なのに対し、女性は「循環型」であることを発見した。精神的な満足や親近感を感じるなどの肯定的な要素が一つあると、それが他の要素を刺激し、結果的に性欲と興奮につながるという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア外相、サウジ皇太子とOPECプラス協力を協議

ビジネス

EU経済再生、大規模な投資と改革必要=ドラギ氏報告

ワールド

退役米軍高官10人、ハリス氏への支持表明 「トラン

ワールド

ドイツ、全ての陸上国境管理 不法移民に対応 16日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア国内の「黒海艦隊」基地を、ウクライナ「水上ドローン」が襲撃...攻撃の様子捉えた動画が拡散
  • 2
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 3
    メーガン妃が自身の国際的影響力について語る...「単にイヤリングをつけるだけ」
  • 4
    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…
  • 5
    歯にダメージを与える4つの「間違った歯磨き」とは?…
  • 6
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 7
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 8
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 9
    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…
  • 10
    「1日15分の運動」で健康状態が大きく改善する可能性…
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
  • 4
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 5
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 6
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 7
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つ…
  • 8
    世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンから…
  • 9
    「私ならその車を売る」「燃やすなら今」修理から戻…
  • 10
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンシ…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中