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アメリカ経済

格付け会社を噴火口に落とせ

Drop Moody's into the Volcano

金融危機で問題点が露呈したムーディーズに改革を促す声が高まっている

2009年11月16日(月)15時30分
マイケル・ハーシュ(ワシントン支局)

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[2009年10月21日号掲載]

 アーサー・アンダーセンという会社を覚えているだろうか? エネルギー大手エンロンの会計不正事件に絡んで書類を意図的に破棄し、不正に加担していた疑いを当局にかけられた大手監査法人だ。同社は02年に解散に追い込まれた。

 米最高裁判所は05年、アンダーセンの書類破棄に関する下級審の有罪判決を証拠不十分として差し戻したが、時既に遅し。同社は評判の失墜と損害賠償の訴訟の荒波にのみ込まれて沈没した後だった。資本主義とは非情なものだ。

 今回の金融危機に関しては理解し難いことがいろいろあるが、投資家のためにシステムを監視する立場にあった格付け会社がアンダーセンと同じ報いを受けていないこともその1つ。サブプライムローン(信用度の低い個人向け住宅融資)などで金融市場が揺らいだ事態に何らかの責任を負うべき格付け会社が、なぜアンダーセンと同じ運命をたどっていないのか?

 米議会では格付け業界に改革を促す動きが見られるものの、格付け会社に対する当局の扱いは今も驚くほど甘い。

 格付け業界のトップに君臨するのはムーディーズとスタンダード&プアーズ(S&P)。サブプライムローン関連商品に対する不適当な格付けで投資家などが莫大な損失を負ったにもかかわらず、両社は今も健在だ。証券を発行する投資銀行から証券格付けの多額の手数料を受け取るビジネスモデルもほとんど変わっていない。

 9月30日、ムーディーズの元幹部エリック・コルチンスキーが下院の監視・政府改革委員会で証言した。彼によれば、同社はサブプライム危機で市場が激震に見舞われた後、09年になっても証券の格付けを意図的に高くしていた。

 ムーディーズ・インベスターズ・サービスの最高リスク管理責任者リチャード・カンターはこの発言を「聞くに値しない」と一蹴。ただし、ムーディーズの仕事のやり方に「改善の余地がある」ことは認めた。

 ムーディーズがアンダーセンのような厳しい裁きを受けない理由をはっきりさせておく必要がある。簡単に言えば、米政府がそうした事態を恐れているからだ。多くの大銀行と同じく、格付け会社は金融システムにとって重要過ぎてつぶせないというわけだ。

 こうした状況が生まれたのは、1920年代のウォール街の熱狂が大恐慌ではじけた後。政府が金融システムの整備に努めるなかで格付け会社が重要な役割を担うようになった。

「銀行の監督当局は36年、銀行が債券を資産に組み込む際、投機的な性格の債券を避けるよう通達を出した」と、ニューヨーク大学のローレンス・ホワイト教授(経済学)は言う。「銀行は投資に適した債券を買わなければならなくなった。では投機的か投資に適しているかを決めるのは誰か──ひと握りの格付け会社だ」

 ホワイトのみるところ、「監督当局は(投資の)安全性の評価をアウトソーシングした」のだ。

統一ルールが存在しない

 現在、大手格付け会社は米政府から「全国的に認知された統計格付け機関」と認定されている。銀行や年金基金などが「安全」な投資を行うために頼りにすべき機関だ。最近までは、誤った格付けについて法的責任を問われないよう、合衆国憲法修正第1条(表現の自由)による完全な保護の対象になっていた。

 格付け会社の優遇が重大な問題を引き起こしている。監査法人の場合、会計士が米国会計基準に従っていなければ資格剥奪や起訴もあり得る。だが格付け会社は、各社が独自の格付け基準を採用しており、統一ルールはない。

 そのため格付け業界には、説明責任や透明性に関して改善の余地がある。現状では格付け会社の不正が露見する可能性はほとんどない。絶対的な権力は必ず腐敗を生むものだ。

 サブプライム問題で格付けの問題点がクローズアップされるまでは、ムーディーズは一流の格付け会社と見られていた。かつてアンダーセンが一流監査法人として世界で認められていたのと同様だ。

 ムーディーズなどの格付けシステムは、社債や地方債が主な対象だったときには非常にうまく機能していた。当時は誰でも格付け情報をチェックすることができた。

 だが「ストラクチャード・ファイナンス(資産の証券化などによってリスクをコントロールする技術)」の時代が訪れると、格付けははるかに理解しにくいものとなった。複雑な金融商品が広く利用されるようになると、格付けが適切かどうかをチェックすることは至難の業だ。

 それぞれの格付け会社が別々の格付け手法を使っていることも事態をさらに複雑にした。

 外部のチェック機能が失われたことで、格付けを誤っても厳しい批判を浴びる心配はなくなった。こうして、債券発行者からの手数料収入だけを追い求める風潮が格付け業界に広まった。

 かつては立派だった格付け会社の企業文化の水準は低下。顧客である金融機関の顔色だけを気にする傾向が強まった。FRB(連邦準備理事会)も証券取引委員会(SEC)もその変化を見逃した。

 SECは現在、業界内の競争を促進するため、ストラクチャード・ファイナンスを扱う格付け会社を増やそうとしている。だがムーディーズとS&Pは現在も圧倒的な支配者だ。

 ムーディーズの元幹部コルチンスキーなど内部告発者の主張を信じるなら、両社のビジネス手法が改善される可能性は低い。発行する証券が投資に適しているという評価を得たい投資銀行のために格付けの調整を行う商売はうまみが大きいからだ。

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