最新記事

インターネット

YouTubeはグーグルのお荷物か

増え続ける動画で運営コストはかさむが、広告収入は伸びない

2009年8月25日(火)15時29分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

 ハイテク業界の花形企業は、斬新なアイデアをきっかけに誕生することが多い。インターネット検索大手グーグルの場合、それは「どうやって他人の仕事の成果を元に金を儲けるか」だった。同社は本も雑誌も新聞も発行していないし、記者も雇っていない。それでも、活字で儲けている企業としては世界トップクラスだ。

 グーグルは06年、16億5000万ドルで動画共有サイト「YouTube」を買収。そのコバンザメ商法を活字だけでなく動画の世界にも持ち込んだ。

 もちろん、グーグルが映画やテレビ番組などを作るわけではない。YouTubeへの動画投稿を一般ユーザーに呼び掛け、その動画の横に広告を掲載して儲けの大半を手にしようというのだ。YouTubeにはまったユーザーがコンテンツを大量生産してくれれば、グーグルの懐は潤う。とてつもないアイデアじゃないか! 

 だがグーグルが期待どおりの成功を収めているとは言い難い。広告主たちは、一般ユーザーが作ったコンテンツの横に自社の広告が掲載されるのをそれほど望んでいなかった。確かに広告収入を得たが、運営コストをカバーできるほどではなかった。

毎分アップされる動画は20時間分

 さらに困ったことに、YouTubeのユーザーが急増し、サイトは彼らの動画であふれ始めた。今では月間ビジター数は4億2600万に達し、1分ごとに20時間分の動画がアップロードされている。厄介なのは、コンテンツが増えれば増えるほどデータ管理設備などの運営費がかさむこと。YouTubeは金脈どころかブラックホールになっている。

 グーグルは、ハリウッド企業と契約して「プレミアム・コンテンツ」(つまり、映画やテレビ番組など制作費を掛けて作られた映像)を入手することで苦境を脱しようとしている。問題は、ハリウッド企業は一般ユーザーと違って、無償では提供してくれないということ。コンテンツが欲しければ、ライセンス料を支払わなければならない。

 グーグルはYouTubeのサイトにさまざまなタイプの広告を掲載して、収入を増やそうとしている。検索語に連動した文字広告だけではなく、動画タイプの広告もある。

 それでも、こうした努力はそれほどの利益を生み出していない。「YouTube買収から大きな利益を得るにはまだ時間がかかる」と、グーグルは米証券取引委員会に提出した報告書の中で述べている。YouTubeは買収が期待ほどの成果を挙げていない例として、この報告書の「リスク要因」と題されたセクションに登場している。

 グーグルに言わせればYouTube買収は失敗ではない。「わが社は実験や変革に挑み、成功と失敗の両方から学ぶことで事業を成長させている」とグーグルの広報担当者は語る。彼はYouTubeの損失規模を推測しようとするアナリストや、それを報じ続けるマスコミにいら立ちを覚えるとも言った。

いつかドル箱になり得る市場

 確かに、そうした推測には信頼できるものがないが、グーグルがデータを公開していないのだから実情をつかめないのは当然だろう。グーグルのエリック・シュミットCEO(最高経営責任者)はテクノロジーに裏打ちされた「透明性」を提唱しているものの、YouTubeに関しては透明性を期待するのは難しそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中