PCバッテリー駆動時間はインチキ
絶対にあり得ない数字がノートパソコン広告に載っている理由
自動車メーカーが協力して新車の燃費を独自の方法で測定し始めたとしよう。アイドリング状態で下り坂を走るのだ。次々に驚愕の数字が飛び出す。重量3トンのSUV(スポーツユーティリティー車)が1リットル当たり130キロ! サブコンパクトカーは210キロ!
ただし、窓ガラスのステッカーの一番下に小さな文字で免責事項が記されている──燃費は状況によって異なることがあります。
もちろんインチキだ。だがノートパソコンとバッテリーの駆動時間をめぐり、多かれ少なかれ同じようなことが起きている。
私の手元にある家電量販店ベスト・バイのちらしでは、デルのノートパソコン(599ドル)のバッテリー駆動時間は「最大5時間40分」。その下に小さな字で、さまざまな状況により「異なります」。つまり5時間40分はあり得ない。絶対にない。
では、どうしてこの時間なのか。バッテリー持続時間はモバイルマーク2007(MM07)と呼ばれるベンチマークテスト(性能テスト)に基づいて算出される。テストを作ったのは、パソコンメーカーなどが所属する業界団体BAPCo(ビジネスアプリケーション・パフォーマンス法人)だ。
そのBAPCoで内部告発が起きている。マイクロプロセッサー業界2位のアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)によると、MM07の数字が誤解を招くことをパソコンメーカーは十分に承知しているが、お構いなしに宣伝しているという。
AMDが批判、インテルが反論
バッテリー駆動時間が長く算出されるのは、テストの際に画面の明るさを最大値の20~30%に抑え、無線機能をオフにし、主要なプロセッサーチップを処理能力の7.5%しか動かさないから。車をアイドリング状態で下り坂を走らせるようなものだ。
技術者や業界関係者はかなり前から、企業が公称するバッテリー駆動時間はほとんど意味がないと知っている。しかし普通のユーザーは知らない。だから、店員にこちらの機種はバッテリーが1時間長持ちしますと言われ、高いほうを買わされる人もいる。
「業界が自己規制をするか、米連邦取引委員会(FTC)が介入するか、集団訴訟を起こされるか。われわれは最初のシナリオを勧める」と、AMDのマーケティング担当副社長パトリック・ムーアヘッドは言う。
AMDはパソコンメーカーに、「使用時間」と「待機時間」から駆動時間を算出する新しい方法を提案している。携帯電話の「通話時間」と「待ち受け時間」のようなものだ。
もっとも、AMDが改革を叫ぶのは利他主義からではない。彼らの本音は、MM07が自分たちのライバルのインテルを不当に優遇しているという不満だ。AMDに言わせれば、MM07はインテルの研究室で開発され、インテルのチップがAMDのチップより高い数値が出るように操作されているという(待機状態ではAMDのほうが電力を多く消費する)。さらにBAPCoの会長はインテルのベンチマークテストの責任者だとも指摘する。
対するインテルは、たわ言にすぎないと一蹴する。同社の広報担当者は、会長がインテルの重役だからといって同社が特別な影響力を持つわけではないと反論。「パフォーマンスの劣る会社は、標準的で独立した基準に異議を唱えることも多いものです」