最新記事

中国経済

まちがいだらけの中国経済

内需拡大を図らなければ、貿易摩擦と破滅的な結果を引き起こす

2009年4月9日(木)15時20分
マイケル・ペティス(北京大学光華管理学院教授)

 経済危機にはいいこともある。この景気低迷で、アメリカと中国は自国の経済がかかえる不均衡を是正する絶好の機会に恵まれた。世界経済の悪化に歯止めをかけるためにこの機会を逃してはならない。ただアメリカの指導者、そして中国の指導者の多くは、今回の危機が中国経済の今後にどれだけの影響を及ぼすかについて正しく認識していない。

 中国政府発表の都市部の失業率は4%程度だが、多くの非公式調査が実際には8%近いと推測している。今後数カ月で失業率が大幅に上昇するという見通しに反対する者はいない。信頼できるいくつかの調査によれば、中国が世界銀行の予測どおり今年7・5%の経済成長を実現しても、失業率は年末までに2倍になるという。

 いや、現実にはもっと悪くなるだろう。中国は生産が消費をGDP(国内総生産)の10%近く上回る深刻な生産過剰をかかえているからだ。これまでは超過分を輸出に回してきたが、欧米やその他の地域の市場が急速に縮小するなか、内需の伸びでその差を埋めることは不可能だ。

守旧派と改革派の対立

 さらに、企業収益の急速な悪化による投資の落ち込みは避けられない。これまで中国の設備投資は、その約3分の2が企業収益から拠出されていた。輸出と投資は中国経済の成長を牽引する両輪だったが、どちらも見通しは暗い。

 中国は二つの大きな目標を達成する必要がある。国内では雇用の創出。国際的には過剰な生産力の削減だ。しかし、短期的にはこの二つの目標を同時に実現することはむずかしい。

 たとえば中国政府は雇用促進のために融資を増やすよう銀行に強制しているが、このことは将来不良債権問題を引き起こすだろう。

 金融市場の構造上、こうした新たな融資はすべて製造業やインフラ整備に投下されている。融資が中国で雇用を生めば、世界の需要増に貢献することができる。だが、新たに増えた需要は生産力の向上によって簡単に相殺されてしまう。そうなれば、中国は需要が激減した世界に製品を輸出し続けることになる。

 今のところ、中国の指導者たちは世界経済の不均衡を解消するため中国が果たすべき役割をよく理解していない(理解したくないのだ、と言う人もいるが)。今回の危機を消費主導型経済に移行する不可欠なプロセスだととらえる指導者は、既存のまちがいだらけの成長モデルを加速させることで失業問題を解決しようと考える指導者と対立している。

 守旧派は人民元の為替レートを据え置き、賃金上昇を抑制し、融資や資金を生産業者に振り向けようとする。こうしたすべてが、生産力の増大と消費の抑制を引き起こす。

 しかし、中国が生産過剰を世界経済に押しつけ続ければ待っているのは貿易戦争だ。世界中で保護主義が大きく台頭しつつある現在、中国とアジアの近隣諸国の間でも、すでに貿易摩擦が起きはじめている。

 中国が保護主義に陥れば、破滅的な結果をもたらすだろう。生産のすべてを国内で消費しなければならなくなることでその成長モデルと金融システムは限界に達し、工場閉鎖と膨大な数の労働者の解雇だけが生き残る道になる。社会への影響は計り知れず、政治的には強硬派が勢いをつけかねない。

中央銀行を「解放」せよ

 アメリカは中国と中国国内の改革派をこの悪夢のシナリオから救うことができる。人民元切り上げと生産業者への支援の停止を要求する代わりに、向こう4〜5年間、中国と協調しながら両国経済の関係を再構築する。アメリカ政府は一定のペースで財政拡大を続け、保護主義的な貿易政策を取ってはならない。

 その代わり、中国政府は段階的に人民元の切り上げを続けると同時に、中央銀行である中国人民銀行に金融政策の指揮権を譲る。金融市場改革を継続し、金利を自由化し、最低賃金を引き上げ、民間貯蓄を市場に解放するため、医療と教育への投資によって社会のセーフティーネットを改善すべきだ。

 痛みを伴う政策だが、破滅するよりはましだろう。結局のところ、世界経済の立て直しのためにアメリカは貿易赤字を減らし、中国は国内消費を増やさなければならない。両国が知性をもって対応すれば、今後数十年間にわたる国際協調の礎となるだろう。もしできなければ、世界は敵対と不信の時代を迎えることになる。

[2009年3月18日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

コロンビア中銀、予想外の政策金利1%引き上げ 10

ワールド

コスタリカ大統領選、現職後継の右派候補が勝利目前

ワールド

インド26年度予算案、財政健全化の鈍化示す=フィッ

ビジネス

氷見野副総裁、3月2日に和歌山で懇談会と記者会見=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 3
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタリア建築家が生んだ次世代モビリティ「ソラリス」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    中国がちらつかせる「琉球カード」の真意
  • 6
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    【銘柄】「大戸屋」「木曽路」も株価が上がる...外食…
  • 10
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中