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属国ニッポンに「独立」のとき

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長年の従属外交を脱して
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2009.11.10

ニューストピックス

属国ニッポンに「独立」のとき

2009年11月10日(火)12時34分
川口昌人、デーナ・ルイス

 日本の外交官は、アメリカとの間に波風が立たないようにすることに50年間を費やし、他の地域のことはなおざりにしてきた。

 おかげで「外務省は外交官の資質に欠ける人間ばかりになった」と、猪口は嘆く。田中真紀子外相と官僚の対立や一連の不祥事は、外交より縄張り争いに熱心な組織というイメージを決定づけた。

 アーミテージの求めに応じたのも、外交政策とは直接関係のない理由によるものかもしれない。「日本がこれだけ速く動いた背景には、下級官僚のときに湾岸戦争を経験し、今はそれより高い地位に就いている官僚の存在がある」と、戦略国際問題研究所のブリアは言う。「彼らは、日本が再び世界中から白い目で見られることだけは避けたいと感じていた」

外交ゲームのセンスを磨け

 そうした事態は避けられたが、より自立した外交姿勢を示さないかぎり、他国の尊敬は得られない。そのためにはまず、多国間レベルで物事を考えるべきだろう。

 今や世界は日本がアメリカ相手に行ってきた「以心伝心」の外交から、「ルールをつくり、それに違反するか遵守しているか」の外交に移りつつあると、東京大学の猪口は言う。「軍縮も貿易も環境も、ルールにかかわる問題だ」

 外交ゲームのセンスを磨く必要もあると、石原慎太郎は言う。「中国との関係でアメリカをどう使うかとか、アメリカとの関係でヨーロッパをどう使うかとか、自分のもっているカードを利用することを考えないといけない」

 そのためには、それを担う人材が必要だ。自民党の河野太郎衆院議員は、外務省は人事制度を根本から改めるべきだと主張する。

 「外務省からシンクタンクやNGO(非政府組織)に出るとか、民間企業に行くといった交流をするべきだ」と、河野は言う。「そうすればケンカすべきときにケンカしたり、今までのやり方を変えようと気軽に言えるようになる」

 政治も変わる必要がある。河野は、初当選してすぐに衆院外務委員会のメンバーになることができた。希望者が少なかったからだ。「日本では、外交は票にもカネにもならない」と、河野は言う。

 だが、それも変わりつつある。都市部の若い有権者は、外交政策に敏感だ。中国製品の緊急輸入制限をめぐる論争をきっかけに、地方の有権者も世界の変化が生活に与える影響を痛感しはじめた。

 もっとも、日本人に「独立」の代償を払う覚悟があるかどうかはわからない。帝京大学の志方は最近、学生にこんな質問をした。

 日本は、世界に影響を与える大国であり続けるべきか。それとも、条約上の義務を果たすだけの小国で満足すべきか。あるいは、他国に迷惑をかけず静かに暮らす「小市民国家」となるべきか。

政治家も市民も思考停止状態

 志方は、結果に愕然とした。学生の八五%が「小市民国家」を選んだのだ。「日本はエネルギー資源の大半を輸入に依存しているし、食料自給率も穀物では40%にすぎない。(輸出入の)要衝で何かが起きれば、たちまち物が入ってこなくなる」と、志方は言う。「小市民国家というのは、ありそうだが実はありえない選択肢だ」

 半世紀に及ぶアメリカへの依存は、政治家や官僚を「思考停止」にさせただけではない。市民もまた、外交について真剣に議論することなく過ごしてきた。

 「日本人そのものが、外交に対する関心が薄い。アメリカ追従などということすら意識していない」と、最近、外交に関する勉強会に参加したライターの野々下裕子は言う。「私自身、田中が外務省で暴れていなかったら、こんな会には参加しなかった」

 そうした態度はもはや通用しない。テロの脅威はアジアにとっても深刻な問題であり、「だからこそ日本は安全保障をアメリカ任せではなく自ら考えるべきだ」と、三菱総研の青山は言う。

 明るい兆しもある。猪口によれば、日本の一部の私立大学の新入生は、多くの官僚より英語力が高い。日本のNGOは、世界各国の紛争地帯で活躍している。

 北朝鮮のテポドン発射や同時多発テロで、国益が危機にさらされているという意識も高まっている。足りないのは、自らの意見だ。「外交を含むあらゆる政策は本来、将来どういう国をつくるかということから逆算して、今やることを決めるべきだ」と、第一勧銀総研の真壁昭夫は言う。

 日本をどんな国にしたいのか。そのために、政治家や官僚は何をすべきなのか。アメリカの「隷属支配」から抜け出すには、まず日本人がそれを決める必要がある。

[2001年12月26日号掲載]

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