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植松伸夫(ゲーム音楽作曲家)
ゲームを変えた音の魔術師
私はブルース・スプリングスティーンが好きだ。バート・バカラックもファッツ・ウォーラーも好きだ。何年も前から聴いているし、愛用のiPodには彼らのアルバムが詰まっている。
でも植松伸夫(48)の曲は、この3人の多彩な作品を合わせたよりもたくさん聴いてきた。ざっと計算してみると、1987年から今日までに延べ64日にもわたり聴き続けた勘定になる。壮大な曲もあればもの憂げな曲もあり、勝利を祝うアルペジオもある。シャワーを浴びるときには口ずさみ、今もリビングルームに響いている。
なぜなら私が『ファイナル・ファンタジー(FF)』にはまっているからだ。『FF』の第1作が発売されたのはちょうど20年前のこと。以来、私は日本に興味をいだき、ついにはそのゲーム文化について本を書くまでになった。気がつけば『FF』の世界は、あの007シリーズを超える広がりを見せている。
その『FF』ワールドを支えているのが植松の音楽だ。その美しく複雑な曲は、単なるテレビゲームを壮大な叙事詩に変えた。デジタルなゲームにヒューマンな感情を与えるために音楽を使うという手法は、そもそも植松が生み出したものだった。
植松の音楽性は、オペラのような『FF』と完璧にマッチしている。植松が多用するのはワーグナー風の旋律だ。繰り返し登場するキャラクターにはそれぞれのライトモチーフがあり、主人公には勝利と敗北を表す曲がある。ときには昔聴いた旋律が繰り返される。出来事の来歴や手がかりをほのめかすためだ。
多くのファンはゲームで彼の曲に親しんでいるが、曲だけ聴いても素晴らしい。04年にロサンゼルスで行ったコンサートのチケットは完売。翌年には全米ツアーも開かれた。最も有名な曲「アイズ・オン・ミー」は、世界中のファンに支持されている。
熱狂的な『FF』のファンたちは、ゲームに疲れるとインターネットに接続し、チャットで世界中の仲間と交流する。そんなときも、BGMで流すのはたいてい植松の音楽だ。
[2007年10月17日号掲載]