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中国の真実
建国60周年を迎える巨大国家の
変わりゆく実像
中国モデルに世界が学ぶとき
「ショック療法」を拒む
実際、中国は最近になって、燃料価格を国際水準に近づけるため燃料補助金の削減を進めている。これは長期的計画の一環だ。政府は製品・サービスの価格の95%を統制していたが、15年かけてこれを全体の5%ほどに減らした。
時間をかけるのはロシアと同じ失敗を避けるためだ。共産主義体制崩壊で価格統制が撤廃された直後の92年、ロシアは年率1000%の超インフレに見舞われた。「中国はショック療法を求めていない。(ロシアの例をみれば)治療にならないことは明らかだ」と、ブルッキングズ研究所の李成(リー・チョン)上級研究員は指摘する。
中国指導部が市場を鋳型にはめたがるのは、工学畑の出身者が多いからかもしれない。現在の政府トップ9人のうち8人が元エンジニアだ。欧米型のリスクだらけの金融革新を退けたのも、現実的に考えるエンジニアの習性のおかげだったのかもしれない。
党幹部で中国工程院(科学技術の最高研究機関)の院長でもある徐匡迪(シュイ・コアンティー)は、08年11月にスペインのバルセロナで開かれた中国ビジネスに関する会合で、欧米の金融機関が過去10年間に売りさばいてきた「バーチャル」商品を批判。「物理学の博士たちが金融機関にも理解できない金融商品を発明し、金融機関は投資家に実体のない商品の素晴らしさを吹き込んだ」
スキルの高い官僚が支配権を握っているおかげで、中国は物事を効率よくやり遂げることも得意だ。
「一貫した方針の下、国民と資源を結集して目標を達成するのにはいつも驚かされる」と、CLSAの中国経済調査部門の責任者デービッド・マーフィーは報告書で述べている。次に何が起こるかわからないロシアとは大違いだ。
エンジニアが動かすこの国は、数値にこだわる。中国政府に近いあるエコノミストによれば、政府高官のパーティーで出る酒は、ボルドー産の特定の銘柄のワインばかり。有名ワイン評論家のロバート・パーカーが非常に高い格付けをしたからだ。
パフォーマンスが悪い高官が責任を問われることもしばしばで、これも他の多くの途上国とは違う。08年9月には、有害物質メラミンを混入した粉ミルクで大きな健康被害が出た事件を受け、製造元の三鹿集団の本社がある石家荘市の幹部を更迭。国の食品安全管理当局のトップも辞任した。