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オバマのアメリカ
チェンジを掲げた大統領は
激震の超大国をどこへ導くのか
アフガニスタンは「オバマのベトナム」
タリバンの支配は拡大
対ゲリラ戦の基本は「掃討、確保、構築」だ。ゲリラを勢力地域から掃討し、ゲリラが戻れないように地域を確保し、行政機構を構築して政府への支持を獲得する。
連合軍はタリバンの「掃討」には成功しても、「確保」がおぼつかない。南部では逆にタリバンのほうが「掃討、確保、構築」を実践している。
国際シンクタンク「治安と開発の国際審議会(ICOS)」が昨年12月に発表した報告書によれば、タリバンが実効支配を確立した地域は国土の72%に及び、前年の54%から大幅に拡大した。タリバンは首都カブールにも迫りつつあり、「カブールの幹線道路4本のうち3本がタリバンによる攻撃の脅威にさらされている」と、この報告書は書いている。
タリバンにはNLFにはなかった強みもある。ヘロイン取引による収入だ。アフガニスタンのケシは世界のアヘン生産の約93%を占める。根絶が急がれるが、栽培量は04年から2倍以上に増えた。
ケシ農家をほかの作物に転換させたいが、農民はタリバンによる報復を怖がる。しかも、ほかの作物に転換したとしても、今は市場に運ぶまともな道路がない。
アメリカは主に対テロ軍事行動によって、アフガニスタンに平和を取り戻したいと考えている。そのため、米軍の精鋭である特殊部隊を無駄に使っている。
特殊部隊といえば、秘密の任務を与えられてヘリから降下するというイメージがある。しかしブッシュ前大統領が世界規模の対テロ戦争を始めるまで、特殊部隊の日常任務は途上国での軍の育成だった。ベトナムでも陸軍特殊部隊の当初の任務は、先住民をゲリラ兵士に育て上げることだった。
だが62年以降、特殊部隊は国境地帯の封鎖という退屈な任務を与えられた。アフガニスタンの特殊部隊も現地軍の育成ではなく、アルカイダやタリバンを追跡したり、パキスタンから武装勢力の流入を防ぐことが任務となっている。
先ごろ戦略国際問題研究所(ワシントン)のアナリスト、アンソニー・コーズマンは民主党議会幹部への報告の中で「アフガニスタン治安部隊の育成は運営がまずく、人員も資金も大幅に不足している」と語った。アメリカは07年まで、アフガニスタン軍の訓練にまともに資金も出していなかった。
米軍とNATO(北大西洋条約機構)軍が派遣している訓練要員は、必要数の半分にも満たず、技術も心もとない。このためアフガニスタン軍は、武装勢力と単独で戦う兵力も実力もない。米軍上層部はアフガニスタン軍の自立には、まだ5年はかかると考えている。
ベトナムと同じく、国境地帯の封鎖も成果をあげていない。北ベトナム軍と同じくタリバンも、国境の向こうの供給路と拠点を頼りにしている。北ベトナム軍がラオスとカンボジアを走るホーチミン・ルートを自由に行き来したように、タリバンも国境を越えてパキスタンの無法地帯に逃れている。
パキスタン国内の拠点はタリバンの訓練や補給に大きな意味をもつ。家族も置いていけるし、自分がけがをした場合にも戻ってこられる。パキスタン駐留のあるタリバン司令官は、兵士たちに5件の携帯電話の番号を渡し、アフガニスタンで米軍に撃たれたらすぐに救出して治療すると約束している。
アメリカはパキスタンでのタリバンの追跡を慎重に進めなくてはならない。ベトナムでアメリカは、ソ連や中国を戦争に巻き込むことを恐れていた。ハノイ周辺で爆撃を行えば、ハイフォン港に停泊するソ連の貨物船を沈めてしまう可能性もあった。
今パキスタンでアメリカが恐れているのは、強引な介入を行ってパキスタン政府を刺激することだ。とりわけ相手は核保有国だから、危険な事態になりかねない。