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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
どうして日本は6年間に6人の総理を取り替えたのか?
今回『チェンジはどこへ消えたか オーラをなくしたオバマの試練』という本を出版しました。2008年には「チェンジ」であるとか「イエス・ウィ・キャン」といったメッセージで全米を席巻し、2009年に就任すると「核廃絶のプラハ演説」や「カイロでのイスラムとの和解演説」などを評価されてノーベル平和賞を受賞したオバマですが、結局は1期目の4年間では「チェンジ」はできなかったのです。
その「結果」は世論にある種の落胆を感じさせました。ですが、それでもオバマは再選されたわけで、その理由を探る中から「向こう4年間」のアメリカの進路を読者の皆さまとご一緒に考えていきたい、それがこの本の主旨です。
それにしても、アメリカの失業率は辛うじて8%を切ったばかりで、景気の戻りには強さは全くないわけです。また若者の雇用に関しては依然として状況は厳しく、この本の中でも取り上げましたが「ウォール街占拠デモ」というのは「深層心理においてはオバマへの異議申立て」でもあるわけです。
では、それほどに問題を抱え、それこそ「オーラをなくした」オバマに対して、どうしてアメリカの有権者は信任あるいは「4年の猶予期間延長」を与えたのでしょうか?
相手のロムニーが「どうしようもないほど無能」だったわけではありません。景気と雇用が問題といっても、現職に怒りをぶつける必要がない程度の「穏やかな危機」だったのかというと、決してそんな甘い状況でもないのです。では、どうして再選されたのかというと、詳しくは本書をお読み頂たいのですが「最終的には中道実務家同士の決戦」となる中で、有権者は冷静にオバマを選択したのだと思われます。
一方の日本ですが、今回の総選挙で仮に野田政権が終わるとしたら、6年間に6人の総理を取り替えることになります。安倍、福田、麻生、鳩山、菅、野田と、それぞれに決して低くない支持率を獲得してスタートしながら1年前後で支持率は「危険水域」に落ち込んで交代に追い込まれています。
どうしてなのでしょう?
政治家の能力が低い一方で、有権者が移り気なのでしょうか? あるいは、世論の要求する政策を実施しようとしても、政権を担って実務的な実態を掌握してみると全く実行不可能だと分かって挫折する、その繰り返しだからでしょうか?
違うと思います。そこには構造的な理由があると考えます。
有権者が政権に対して心の底から望んでいることと、選挙の争点にズレがあるのです。それは「景気と雇用」ということです。アメリカの有権者と全く同じように、日本の有権者も全体としては「景気と雇用」という問題に関して、たいへんな危機感と不満感を持っています。ですが、この問題がどうしても選挙の争点にならないという構造があるのです。
どうして「景気と雇用」の問題が争点化しないのでしょうか?
それは、日本の雇用制度を前提にすると、現在の状況では即効性のある政策はないからです。それどころか、貿易の自由化にしても、国内の規制緩和にしても、効果の方はゆっくりと現れる一方で、正しい政策を実施しても最初に「痛み」という副作用が避けて通れないものが多いわけです。
そうなると、政治家には改革を争点にすることのメリットはなくなるのです。一方で、一年も総理大臣をやっていると改革を行わないことの弊害は、どうしても表面化してしまいます。まさに「景気と雇用」の悪化が顕在化するわけです。そこで政権は有権者の憎悪の対象でしかなくなる、その繰り返しが続いているように思われます。
では、有権者が愚かなのでしょうか? 既得権益にしがみつく我欲、安易に絶望して投票行動を放棄する愚昧に問題があるのでしょうか? それも違うと思います。高齢者は自分の健康と経済状態に底知れぬ不安感を抱えて生きているのであり、若者は若者で自分の納得する選択肢は本当にないと思い詰めてしまっているのだと思います。
問われるべきはジャーナリズムの質です。選挙戦の人間ドラマを伝えて遊んでいるヒマはもうないわけで、とにかく、今回の選挙戦では、景気と雇用という有権者の最大の関心事にフォーカスして、有権者の選択の手助けをしてもらいたいと思います。
<お知らせ>
ブログ筆者の冷泉彰彦氏がオバマ政権2期目の課題を展望する『チェンジはどこへ消えたか オーラをなくしたオバマの試練』(ニューズウィーク日本版ぺーパーバックス)が、先週発売されました。詳しくは当社サイトの書籍紹介ページをご覧ください。
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