コラム

福島第1原発事故から1年を過ぎても解けない「2つ」の謎

2012年03月26日(月)10時53分

 事故発生以来、精力的な取材を続けた東京新聞の取材班による記録『レベル7 福島原発事故、隠された真実』という本が出版されています。取材の中心になっている加古陽治さんという方とは9・11の直後に同じようにNYで取材されている時に、お会いして意見交換をしたことがあるのですが、今回も冷静な視点が光っていると思いました。

 この『レベル7』を読んで、改めて「全電源喪失」による1号機から3号機までの冷却不能という事態の推移を、時系列でたどることができました。勿論、測定器などに大きな支障があり、異常事態のために関係者の記憶も曖昧な中、誰も「本当に起きた事実」を知ることはできないと思います。そうした前提の上に立ってではありますが、改めて「発表され、報道され」た事実の流れを確認することができたのは有意義でした。

 しかし、丁寧に整理された記述を読むことで、改めて2つの疑問が浮かび上ったのも事実です。それは「2号機」の問題と「4号機」の問題です。

 この『レベル7』では非常に緊迫した描かれ方をしているのですが、「原子炉格納容器」の圧力が高まる中で、仮に格納容器内で水素爆発が起これば、膨大な放射性物質飛散が起きる危険があるとして「ベント」を一刻も早くしないといけないということになったとされています。

 当時の菅総理がベントをやれと激しい調子で指示をしたとか、その結果として弁を手動で開けるために決死隊が行ったという記述もあります。ですが、ベントが成功した直後に1号機と3号機では、原子炉建屋の上部で水素爆発が起きてしまったわけです。

 ですが、派手な爆発のシーンで全世界を震撼させた1号機と3号機の爆発時には、空間線量の上昇は大したことはなかったわけです。従って、今、大変な広域にわたって農業経営への被害や除染、避難といった問題を残している放射性物質の放出に関しては、2号機が主因ではないかという可能性があるわけです。

 この2号機については、格納容器とつながっている圧力抑制室で水素爆発が起きてしまったということになっています。その「爆発音がした」時刻に周辺線量が急上昇しているのと、恐らくはそのために大量の汚染水に苦しめられたというのが、直後からの報道で伝えられています。

 ところが事故から1年の先週、3月14日に東電は2号機の原子炉建屋地下にある圧力抑制室の写真を公開しているのですが、読売の報道によれば「観察した範囲では目立った損傷は確認されていない」というのです。では、2号機の周辺線量の高さが突出していたということはどう説明したらいいのでしょう? また2号機の「ベント」が試みられていた3月15日に広域にわたって高線量となっているという事実も「圧力抑制室での爆発・損傷」がなかったとすると、大きな謎になります。

 もう1つ、2号機の建屋上部の壁には「横向き」しかも福島第1の場合は「海へ向けて」建屋内の気体を排出する「ブローアウトパネル」という自動開閉式パネルがあるのです。水素爆発を避けるためです。事故直後の映像(米ディカバリーチャンネルが放映した特番)では、2号機に関してはこの「ブローアウトパネル」が開放されている映像があり、しかも「決死隊が手動でこのパネルを開けた」というナレーションがついていました。安全・保安院の発表している写真でもこの「パネル開放」は確認ができます。(但し、日本側の説明では損傷して開いたということになっています)

 1つの仮説は「2号機はベントをしたために大量の放射性物質を排出してしまった」という可能性です。では1号機と3号機は水素爆発だけで済んだのに、2号機だけは大量の放射性物質を出したのは何故かというと、様々な報道や発表を総合すると「1号機と3号機は水フィルターを通じて放射性物質を除去しながらのベントに成功したが、2号機だけはフィルターを通さずにベントせざるを得なかった」というシナリオを描くことができます。

 もう1つは4号機です。4号機は事故直後には「使用済み(+定期点検のため使用中の「熱い」ものも含む)燃料プール」の冷却水循環が止まり、加熱した燃料棒のジルコニウム皮膜から水素が発生して爆発したという理解がされていました。ですが、その後に東電は何度も「燃料棒の写真を見ると損傷していない」ということから、「燃料プール空焚き説」を否定しています。

 その代わりの説明としては「3号機の圧力容器で発生した水素が配管を通じて4号機の建屋に回った」というのです。ですが、これも妙な話です。確かに3号機と4号機はタービン建屋でつながっていますが、稼働時期にも2年の差がある中で、配管は独立していると見るべきです。また、仮にそこまで「配管に損傷があった」のであれば、事故の性格自体が「全電源喪失事故」ではなく、地震と津波による物理的な破壊という面からの分析を要求することになってしまいます。

 にも関わらずどうして「4号機の爆発は燃料プールの加熱のため」ということを否定したがるのか、この問題は大きな謎として残っています。何よりも、東京消防庁や自衛隊の「決死隊」が給水作戦を実施したのは3号機と並んでこの4号機のプールを冷やすためだったわけで、爆発の原因がプールの加熱ではないということになると、あれは一体何だったのかということになります。

 今、事故調査に関して様々な活動がされていますが、当時の菅首相が怒ったのが正しかったのかどうかなどというドラマ仕立てで議論を脇道に持ってゆくのではなく、2号機と4号機で起きたことは何なのかということをしっかり追究して欲しいと思うのです。

 ちなみに、今、全国の原発では「建屋に水素が溜まった場合に爆発を避けるために、建屋の天井に水素抜きの弁を取り付ける」ことや水素センサーの設置を進めているようです。ですが、そんなことより建屋内ベントの場合に放射性物質が大量に漏れないようにフィルターが必ず動くという方向での「強化」の方が大切だと思うのです。米NRCは3月10日に福島第1の1〜3号機との同型炉に対して、フイルターでの浄化機能を伴うベント機能の徹底を命令していますが、日本でもこの点をしっかりチェックする必要があると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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