コラム

「非正常な死」で隠される中国の闇

2015年11月25日(水)15時00分

 一説によれば、今年1月から現在までの間に、少なくとも27名の中国政府の高官が「非正常な死」を遂げた。ここ30日だけでその数は9人に上る。その中には、死因が公開されない人物もいる。

 死亡した状況も奇々怪々だ。大手証券会社「国信証券」総裁の陳鴻橋(チェン・ホンチアオ、49歳)は自分が出国制限の措置を受けたと知った後、家に帰って自殺したが、遺書には「請勿擾妻児(妻に迷惑をかけないでください)」という5つの文字だけが書かれていた。広西チワン族自治区柳州市の党委員会副書記の肖文蓀(シアオ・ウエンスン、51歳)は河辺を散歩していた時に水に落ちて溺死したが、メディアの報道では河辺には手すりがあり、かつ現地の住民によれば肖が落ちた場所の水位は非常に浅く、1メートル前後しかなかった。吉林省蛟河市公安局長の郝壮(ハオ・チョアン)は執務室がある6階から落ちて死亡したが、公安当局は郝がガラスをふいていて足を踏み外し、落ちたのだと説明した。

 高官の「非正常死」は大陸だけで発生しているのではない。マカオ税関の女性税関長だった頼敏華(ライ・ミンホア、56歳)は奇妙なことに、公衆トイレで「自殺」しているのが見つかった。頼は発見された時、首の右部分と両腕に刃物で傷つけられた多くの傷があった。血の付いたカッターナイフはハンドバックの中に戻され、頭部にはビニール袋が被せられ、そばには睡眠薬が残されていた。当局によれば、彼女個人の携帯電話は尿で濡れて起動できない状態になっていたという。

 官製メディアである新華網の昨年の報道によれば、13年1月~14年4月までの間に「非正常死」を遂げた高官の数は54人に上り、その中の23人は自殺。うち抑うつ病あるいは抑うつ病を疑われる人は8人いた。どうして中国には自殺する高官がこんなにも多いのだろうか。

 中国共産党独特の「双規(編集部注:党紀律委員会による司法手続きに乗っ取らない捜査・身柄拘束)」などの内部調査のやり方が高官にプレッシャーとなっているのが最大の原因だが、政府内の複雑な関係が「将棋倒し」的な結果を招くことも関係している。たとえば、ある地方官僚が中央の調査の対象になれば、往々にしてその官僚が所属する部署全体、さらには他の部署の高官にまで累が及ぶ。そのため、捜査対象になった者が自殺するのはある意味最も好ましい問題解決の方法になる。黙って認めればそれ以上罪は追及しない、人が死ねば事件はもう捜査しない、という文化が中国には存在するからだ。その結果、家族や同僚たちの利益は守られる。

 多くの高官が自ら進んで自殺を選び、政府内の秘密を守る一方で、死を選ぶことを望まない高官も死ぬ事を迫られている――抑うつ病は「口をふさぐ」またとない理由になる。

 元重慶市トップだった薄煕来(ボー・シーライ)にとって、公安局長の王立軍(ワン・リーチュン)は最も信頼する腹心だったが、薄の妻の谷開来(クー・カイライ)が謀殺事件を首謀したことで2人は決裂。その後、王は自分が尾行されているのを知り、そして「抑うつ病」と診断されたという報告を受けた。「抑うつ病」という診断を聞けば、いずれ「被自殺(自殺させられる)」され、口をふさがれる――。そこで彼はやぶれかぶれになり、世界を揺るがすアメリカ成都総領事館逃げ込み事件を引き起こした。この一件は最後には薄の失脚につながった。

 現在の中国で、役人になるリスクは非常に大きい。高官の中で潔白な人間は1人もいない。それは、腐敗した政府人脈は手を汚さない潔白な同僚の存在を許さないからだ。すべての人が腐敗して、初めてみんなが安心できる。また、共産党は腐敗官僚の処分を法律を使わず内部審査ですませることができるが、「双規」では長期間の拘束中に苛酷な取り調べに使われるので、「非正常死」が多く発生する。自分が「双規」の取り調べを受けると知ったとたん、高官がすぐに「抑うつ症状」を発症して自殺してしまうケースもある。

 もし中国の独裁体制が変わらず報道も不透明なままなら、役人は非常にリスクの高い職業であり続ける。まるで執務室が崖っぷちに置かれているようなものだ。もし、ある日「非正常死」が発生しても、それが自分の不注意で落ちたのか、だれかに押されたのは分からない。神のみぞ知る、だ。

<次ページに中国語原文>

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ麻薬組織への地上攻撃、トランプ氏が改めて

ビジネス

インテル、第3四半期利益が予想上回る 株価7%上昇

ワールド

ロシア軍機2機がリトアニア領空侵犯、NATO戦闘機

ワールド

米中首脳会談、30日に韓国で トランプ氏「皆が満足
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 4
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story