最新記事
シリーズ日本再発見

東京はイスラム教徒やベジタリアンにとっても「美食都市」か

2016年12月26日(月)11時11分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

Yuya Shino-REUTERS

<今後さらに多くの外国人観光客を日本に呼び込むには、ムスリム(イスラム教徒)やベジタリアンの食に関するニーズに応える必要がある。取り組みは進んでいるが、果たして彼らの心をつかむ施策となっているのか? 在住者たちに本音を聞いた> (写真:ハラルうどんを食べるインドネシア人の留学生(千葉、2014年))

【シリーズ】五輪に向けて...外国人の本音を聞く

 観光立国を目指す日本の取り組みが着々と実を結んでいる。訪日外国人観光客数は今年初めて2000万人の大台を突破した。年末までには2400万人に達すると予測されている。

 今年3月に開催された「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」では、東京五輪が開催される2020年に2000万人、2030年に3000万人の外国人観光客を招致する目標を、2020年に4000万人、2030年には6000万人と上方修正した。従来から倍増という強気の数値目標だ。

 目標達成のカギをにぎるのは多様なニーズの吸収となる。現在、訪日外国人観光客の送り出し国・地域は中国、韓国、台湾、香港が上位を占めているが、他地域の掘り起こしが不可欠だ。そのためにはムスリム(イスラム教徒)やベジタリアンなどのニーズにも応えていく必要があるだろう。

 最近では新聞をめくっていても「ムスリム向け学食がオープン」「ベジタリアン向け多言語情報サイトがサービス開始」など関連ニュースを目にする機会は多い。取り組みは進んでいるようだが、果たして日本の施策はベジタリアンやムスリムの心をつかむものとなっているのか。「食べ物がおいしい」と評判の日本だが、彼らにとっても日本は美食の国なのか。実際に話を聞いてみた。

【参考記事】和食ブームだけじゃない、日本の料理教室がアジアで快進撃の理由

ベジタリアンだっておいしいものが食べたい

「初めて日本にやってきた20年前とは全然違いますよ」と話してくれたのは東京・御徒町でレストラン「ヴェジハーブサーガ」を経営するラジャさん(40代)。インド出身のジャイナ教徒だ。

 ベジタリアンといっても、乳製品を食べる「ラクト・ベジタリアン」、卵と乳製品を食べる「オボ・ベジタリアン」、魚介類を食べる「ペスコ・ベジタリアン」から、一切の動物性食品、ハチミツを食べず、また革製品なども使用しない「ヴィーガン」など、さまざまな人がいる。ジャイナ教徒はあらゆる生物を殺さないことを戒律としており、肉や卵ばかりか根菜類まで食べることを禁じられている。

「昔はまったく理解されませんでした。例えばエビ入りのサラダを食べられないと話すと、エビだけよけて食べなさいと言われたりとかね。エビを取り除いたとしても一緒に調理されたものは食べられません。また、ジャイナ教徒向けに料理を作っていただいたこともありましたが、肉や魚を調理した鍋や包丁をそのまま使おうとして慌てたこともありました。本当は別の調理具を使って欲しいし、それができないならしっかり洗って欲しいと頼みました。口の中に入らなければいいというわけではないんです。今はだいぶ変わりました。ヴィーガン向けのベジタリアン・レストランも増えましたし、ネット通販も普及しました。ジャイナ教徒向けのレトルトカレーなんてものも取り寄せられるんですよ」

 20年前と比べれば大きく改善されたが、それでも悩みはあるという。「実はベジタリアン向けのお店っておいしくないところが多いんです」とラジャさん。

 なるほど、筆者にも経験がある。敬虔な仏教徒の中国人を日本に迎えた時のこと。ネットで見つけたベジタリアン・レストランに行ったのだが、料理はパンチがなく物足りないものだった。なじみがないだけにこんなものかと無理やり自分を納得させたのだが、ラジャさんのお店でカレーをいただくとびっくり。濃厚で強烈な味わいなのだ。野菜の旨味でもこれほどしっかり味が付くのかと驚かされた。

japan161226-2.jpg

撮影:筆者

【参考記事】訪日外国人の胃袋をつかむ「食」のマッチングサービス

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロ大統領、スロバキア首相と会談 ウクライナ経由ガス

ワールド

スイスとEU、関係強化に向けた包括的取り決めに基本

ワールド

トルドー内閣、退陣の可能性高まる 野党が1月に不信

ワールド

弱体化したイラン、核兵器製造する可能性=米大統領補
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能…
  • 5
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 6
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 7
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 8
    「オメガ3脂肪酸」と「葉物野菜」で腸内環境を改善..…
  • 9
    「スニーカー時代」にハイヒールを擁護するのは「オ…
  • 10
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 5
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 8
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 9
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中