最新記事
シリーズ日本再発見

開発に10年かけた、シャンパン級のスパークリング日本酒

2017年02月18日(土)15時33分
安藤智彦

写真は本文と関係ありません Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<日本酒が脚光を浴びているが、業界は今も右肩下がり。これからの日本酒づくりはどう攻めるべきか。その第1歩として、700回の試作を経てフルートグラスで楽しめるスパークリング日本酒「MIZUBASHO PURE」が生み出され、「awa酒協会」が発足した>

【シリーズ】ニッポンの新しいモノづくり

「古くさい」「美味しくない」「悪酔いする」等々、ネガティブなイメージの先行する不遇な時代が長かった日本酒。だがここ数年、女性誌やライフスタイル誌を中心に特集記事が増え、再び脚光を浴びるようになってきた。

理由はいくつかあるが、最も大きいのは、日本酒の既成概念に囚われすぎない、新たな造り手への世代交代が挙げられる。

長年受け継がれてきた技法や原料に頑なにこだわるのではない柔軟な発想、日本酒という狭い世界に閉じこもらない広い視野、地元の水や米といったテロワールを活かした醸造スタイルなど、そうしたエッセンスが幾重にも折り重なり、日本酒の新時代が幕を開けようとしている。

とはいえ、日本酒業界そのものが息を吹き返したわけではない。国内出荷量は、30年以上前から右肩下がりの状況が続いている。20年前と比べれば、現在の国内出荷量は半分以下だ。

純米酒や吟醸酒といった特定名称酒に限れば消費量は上向きとはいえ、このカテゴリーが日本酒消費に占める割合は3割ほど。全体の落ち込みを補うにはとても足りない。

一方で、日本酒の輸出量はここ10年で倍増。単価の高い商品が中心に売れているため、販売金額に換算すると3倍増にもなる。長期輸送方法の改善や日本食ブームも追い風に、アメリカやフランス、香港などを中心に盛況が続いている。

【参考記事】世界初! あのワインの権威が日本酒の格付けを発表

一定の支持と認知を得始めた国内市場、そして急成長のさなかにある海外市場。その両方を狙うために、これからの日本酒づくりはどう攻めていくべきか。

そんな問いに対する答えを模索してきた日本酒蔵の1つが、群馬県・川場村の永井酒造。6代目社長の永井則吉(44)がモデルにしたのは、日本酒と同じ醸造酒のワインだ。

飲み物として単体で楽しむのはもちろん、食事に合わせて選べる懐の深さ、バリエーションの豊かさがワインの真骨頂だと考えた永井。食事の際の選択肢となる機会を増やすには、ワインスタイルを日本酒用にアレンジしていくのが1つの道ではないか――。

フランス料理のコースにも負けることなく一緒に楽しめる、そんな日本酒のラインアップを模索する挑戦が始まった。

スパークリング日本酒は珍しくはないが

だが、食前酒の段階でさっそく壁にぶち当たる。フランス料理の食前酒といえば、言わずと知れたシャンパンだ。

発泡性の日本酒、いわゆるスパークリング日本酒自体は珍しいものではない。白く濁ったどぶろくタイプのものもある。だが、シャンパンのようにフルートグラスで楽しめる、クリアな味わいをもつものはほとんどない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、バルト海の通信ケーブル破壊の疑いで捜

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中