アングル:韓国のソウルフード「キムチ」に迫る気候変動、白菜収穫激減も
9月3日、韓国料理に欠かせないキムチが、気候変動の脅威にさらされている。写真はキムチを仕込むイ・ハユンさんら。8月、韓国・南楊州市で撮影(2024年 ロイター/Kim Soo-hyeon)
Sebin Choi Hyun Young Yi
[江陵市(韓国) 3日 ロイター] - 韓国料理に欠かせないキムチが、気候変動の脅威にさらされている。研究者や農家、製造業者らによると、気温上昇により、主な原材料である白菜の品質や収穫量に低下がみられるという。
白菜の生育には涼しい場所が適しており、重要な栽培シーズンとなる夏季でも気温が25度を超えることはめったにない、山地などの高冷地で栽培されることが多い。
複数の研究によると、気候変動による気温上昇がこうした作物の生育を非常に脅かしており、韓国では将来的に白菜の栽培ができなくなる可能性もあるという。
「こうした予測が現実にならないことを祈っている」と植物病理学とウイルス学の専門家、イ・ヨンギュ氏は言う。
「白菜は冷涼な環境を好み、耐えられる温度範囲はとても狭い。生育適温は18-21度だ」
畑や店頭、家庭の食卓に至るまで、農家やキムチ製造業者らは既にさまざまな場所で変化を感じつつある。
辛く味付けされた発酵食品のキムチは、ダイコンやキュウリ、ネギといった他の野菜でも作られているが、白菜は長年最も親しまれている定番の食材だ。
韓国の食文化を支える「キムチマスター」として農林畜産食品部の認定を受けているイ・ハユンさんは、白菜の芯部分が「悪くなっている、根元がもろい」として、高温による野菜への影響だと指摘した。
「もしこの状態が続けば、夏場は白菜のキムチを諦めなければならないかもしれない」とイさんは言う。
政府の統計データによると、昨年の高地の白菜作付面積は3995ヘクタールで、20年前の8796ヘクタールから半減以上の縮小となった。
韓国の農業シンクタンク、農村振興庁の気候変動シナリオでは、作付面積は今後25年でわずか44ヘクタールへと大幅に減少し、2090年には高地でも白菜が全く育たなくなることが予測されている。
研究者らは白菜の生産量が激減している原因として、気温上昇や予測が困難な豪雨、より高温・長期化する夏には対策が難しい害虫などを挙げた。
白菜を枯らす細菌感染は、農家をとりわけ悩ませている。収穫の直前になって初めて病気が発覚するためだ。
また、韓国のキムチ市場は、主にレストランなどで提供されている低価格な中国からの輸入品との競争にも直面しており、気候変動はこうした現状に追い打ちをかけている。
2日に公開された税関データによると、今年7月末までのキムチの輸入額は約9850万ドル(約141億7000万円)と昨年から6.9%増加。そのほぼ全てを中国からの輸入が占め、割合は過去最大となった。
韓国政府は今のところ、キムチの価格急騰や供給不足を避けるため、空調完備の巨大貯蔵施設の備蓄に頼っている。研究者らは、より温暖な気候でも育ち、降雨や害虫といった変化にも強い白菜の品種改良を急いでいる。
韓国東部の江陵市で長年、キムチ用白菜農家を営むキム・シガプさん(71)は、品種改良によって従来の味が変わってしまうだけでなく、価格も上がってしまうのではないかと懸念を示した。
「将来的に韓国で白菜が栽培できなくなるかもしれないという予測を目にして、衝撃を受けたと同時に悲しかった」とキムさんは言う。
「キムチは、食卓になくてはならないものだ。もし、予測が現実になってしまったらどうすればいいのか」
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