ニュース速報
ワールド

アングル:ウクライナ陸軍の著名部隊、隊列強化へ独自の新兵募集活動

2024年02月24日(土)15時24分

ウクライナ陸軍「ダビンチ・ウルブス」大隊の創設者は約1年前、ロシア軍との戦闘中に命を落とした。その肖像写真は今、首都キーウに新設された広々とした新兵採用事務所の壁に飾られ、志願者に油断のない視線を注いでいる。10日撮影(2024年 ロイター/Gleb Garanich)

Dan Peleschuk

[キーウ 16日 ロイター] - ウクライナ陸軍「ダビンチ・ウルブス」大隊の創設者は約1年前、ロシア軍との戦闘中に命を落とした。その肖像写真は今、首都キーウ(キエフ)に新設された広々とした新兵採用事務所の壁に飾られ、志願者に油断のない視線を注いでいる。

ロシアによる全面侵攻開始からまもなく2年、ウクライナは将兵の損耗に悩まされており、動員計画を見直し、新兵募集の範囲を広げようと苦心している。

「ダビンチ・ウルブス」大隊の場合は、昨年3月に東部バフムト近郊で戦死するまで同大隊の指揮を執っていた「ダビンチ」、つまり戦場の英雄ドミトロ・コチュバイロ氏のイメージを活用することが、新兵募集の鍵だ。

新たに指揮官となったセルヒー・フィルモノフ氏は、先日の事務所開設式典の際に、「私たちが特に求めているのは、戦う意志があり、この部隊に加わることを望み、私たちが何を目指しているのか理解している人間だ」と語った。

また同大隊は、徴兵資格を満たすウクライナ国民に、任務地域や部隊を選ぶことができることを分かってほしいと考えている。これは当局が進めている兵役に関する全般的な改善措置の一環だ。

ウクライナは昨年6月に反攻を開始したものの大きな戦果は挙がらず、前線の大半ではロシア軍の急襲を受けている。

ウクライナによる兵力動員は難航している。汚職疑惑や、自宅に押しかけたりバスから男性たちを引きずり下ろしたりといった採用当局者の横暴が頻繁に報道されているからだ。

議会は徴兵年齢の27歳から25歳への引き下げ、徴兵忌避の厳罰化を含む法案を審議中だ。国防省も民間の募集事業者の手を借りる方向にかじを切っている。

「ダビンチ・ウルブス」大隊は志願兵で構成され、多くの前線で戦闘に参加してきた。第59独立自動車化歩兵旅団配下での再編に伴い、士気の高い歴戦の戦闘部隊としての評判を活かして、独自の新兵募集活動を行っている。

戦死したコチュバイロ氏は2014年から民族主義者部隊の一員としてロシア軍との戦闘を重ねてきた。2021年にはゼレンスキー大統領から「ウクライナの英雄」の称号を受け、葬儀には同大統領も参列した。軍で用いるコールサイン「ダビンチ」は、同氏の美術への造詣に対する敬意を反映している。

民族主義的な指導者、活動家としても有名なフィリモノフ氏によれば、同大隊には他にも映画俳優や政治家といった著名人が参加しており、「社会で影響力のある」多くの支持者を抱えているという。

フィリモノフ氏はロイターに対し、「そのおかげで、私たちが何を望んでいるかをネット経由で周知できる」と語り、前任者のレガシーは新兵募集の柱となっている、と続けた。

他にも、第3独立強襲旅団といった注目を浴びた部隊もやはり独自の新兵募集活動に投資しており、洗練されたメディア広告を制作し、軍務を身近に感じてもらうためのイベントを開催している。

<「最も優れた仲間」>

フィリモノフ氏によれば、「ダビンチ・ウルブス」大隊では、500人前後の新規入隊募集に対して1000人を超える志願者がいる。転属に興味を示す他部隊の現役将兵もいるという。

志願者の1人アナトリー・クバシャさん(48)は、地元の徴兵事務所では煩雑な手続きにうんざりしたといい、最終的な配属部隊についてもっと希望を出したいと話す。

熟練の機械技術者でもあるクバシャさんは、「いい人もだめな人もいるだろうけど、とにかく徴兵担当者は信用ならない」と語る。

キーウ中心部、欧州各国の大使館が集まる地域に設けられた新兵採用事務所を訪れる新規応募者とのコミュニケーションには気を遣うようにしている、と採用担当者らは語る。

「向こうが緊張していて、居心地の悪い空気になっていたら、もちろん、相手がリラックスできるような言葉をかける必要がある。そうすれば、お互いに理解し合えるから」とマクシム・キリチェンコ上等兵は言う。

志願者は訓練に送られる前に、面接と身体検査をクリアしなければならない。「ダビンチ・ウルブス」大隊は西部リビウにも採用事務所を開設した。

記事では「アンドリー」という名だけ載せてほしいと希望する別の入隊希望者は、「ダビンチ・ウルブス」大隊を志願した理由について、一部の現役隊員による平時の活動を尊敬しているからだ、と語った。

「士気の高い、最も優れた仲間と共に戦いたい」とアンドリーさんは話した。

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:FRB当局者、利下げの準備はできていると

ワールド

米共和党のチェイニー元副大統領、ハリス氏投票を表明

ワールド

アングル:AI洪水予測で災害前に補助金支給、ナイジ

ワールド

アングル:中国にのしかかる「肥満問題」、経済低迷で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本政治が変わる日
特集:日本政治が変わる日
2024年9月10日号(9/ 3発売)

派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が増加する」農水省とJAの利益優先で国民は置き去りに
  • 3
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...「アフリカの女性たちを小道具として利用」「無神経」
  • 4
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 5
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 6
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 7
    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…
  • 8
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 9
    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…
  • 10
    川底から発見された「エイリアンの頭」の謎...ネット…
  • 1
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つの共通点
  • 4
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 5
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 6
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 7
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 8
    再結成オアシスのリアムが反論!「その態度最悪」「…
  • 9
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中