ニュース速報

ワールド

焦点:海外勢はイラン投資に及び腰、再選目指すロウハニ師は誘致に躍起

2017年05月12日(金)16時22分

 5月11日、19日のイラン大統領選で再選を目指す現職の保守穏健派ロウハニ師は、核合意を受けた経済制裁の一部解除と、それに伴う海外からの投資増を有権者に訴えたいところだが、海外投資家たちは今のところ口約束をするのみで、実際の投資にはほとんどつながっていないのが現状だ。写真はニューヨークで3月撮影(2017年 ロイター/Lucas Jackson)

[テヘラン 11日 ロイター] - 19日のイラン大統領選で再選を目指す現職の保守穏健派ロウハニ師は、核合意を受けた経済制裁の一部解除と、それに伴う海外からの投資増を有権者に訴えたいところだが、海外投資家たちは今のところ口約束をするのみで、実際の投資にはほとんどつながっていないのが現状だ。

イランのエネルギー省の主催で先月開かれた欧州連合(EU)とイランの石油・ガスフォーラムでは、登壇者はイランの豊富な埋蔵量を口々にほめたたえた。この光景に、仏石油メジャー、トタルのプレジデント(北アフリカ・中東の採掘・生産担当)であるステファン・ミッシェル氏は「最終的に、投資が約束だけで実行されないのなら問題」と話す。

対イラン制裁の解除を受けて、海外のエネルギー会社は昨年、10件以上の石油・ガス田の探査に関する契約をイランと締結。ただ、今のところ、実際の投資につながる契約にこぎつけたものは1件もない。

油田サービスのシュルンベルジェは先月、油田探査の合意の終了を発表。取引で得られる恩恵はリスクに見合わない、と判断したためだ。

こうした状況の中、イラン政府は、海外からの投資を思うように誘致できない原因は「宿敵の」米国にあるとして、苛立ちを強めている。

米政府は、イランが核合意を守っているかどうか90日ごとに確認することを議会に義務付けられている。米国はまた金融制裁の一部を残しており、このためイランの銀行は国際金融システムに参加できない。

さらに、トランプ米大統領は核合意について「これまでに調印された合意の中でも最悪のもの」と宣言。外国企業は、トランプ大統領が突然、核合意を破棄することもあり得るとして、及び腰になっている。

イランのザンギャネ石油相は、欧州の石油メジャーからの投資がまだない主な理由として「米国での政治的要因と圧力」と指摘した。

<イランの投資環境にも問題>

海外投資家はイランでの投資をためらう理由として、イラン自身が抱える問題も挙げる。例えば、透明性の欠如、ぜい弱な銀行システム、官僚主義などだ。また、ロウハニ師が今回の大統領選で、ロウハニ師の対外開放政策に懐疑的な保守強硬派に敗北する可能性も警戒している。

イラン大統領選には、再選を目指すロウハニ師のほか、主に保守強硬派から複数の候補が立候補している。19日の第1回投票で過半数を得票する候補者がいなければ、1週間後に2回目の投票が行われる。

ロウハニ師の対立候補の多くは革命防衛隊の支持を受けている。革命防衛隊はビジネスも幅広く展開、西側企業との競争を望んでいない。

西側がイラン投資に引き続き二の足を踏むようであれば、イランはアジアやロシアの企業に目を向ける可能性がある。アジアやロシア勢は技術面では西側に劣るかもしれないが、リスクは恐れない傾向がある。

実際、イランの石油・ガスプロジェクトの初入札への参加を許された29社のうち半数以上が、アジアかロシアの企業だったという。

EUのある外交関係者は「イランは中国やロシアの企業と安価、かつ安易な取引を結ぶことになるのかもしれない。これは長期的な解決策にはならないが、それ以外に選択肢はないのかもしれない」と語った。

テヘランに本拠を置くコンサルタント会社、パリサ・ビジネスのパートナー、エブラ・ゴハリ氏は「欧州勢は最先端の技術を持っているが、法律・金融・政治面の問題に直面している」と指摘。「それに引き換え、韓国や中国の投資家はこうした問題を抱えていない」と述べた。

ロイター
Copyright (C) 2017 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金正恩氏「大型艦の保有近い」 海軍力強化の重要性強

ワールド

ベネズエラ野党候補、スペインに出国 扇動容疑で逮捕

ワールド

フランス全土でデモ、マクロン氏の首相選出に抗議

ビジネス

景気懸念再燃、ボラティリティー上昇も=今週の米株式
MAGAZINE
特集:日本政治が変わる日
特集:日本政治が変わる日
2024年9月10日号(9/ 3発売)

派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が増加する」農水省とJAの利益優先で国民は置き去りに
  • 3
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元で7ゴール見られてお得」日本に大敗した中国ファンの本音は...
  • 4
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 5
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 6
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 7
    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…
  • 8
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 9
    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…
  • 10
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 1
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つの共通点
  • 4
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 5
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 6
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 7
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 8
    再結成オアシスのリアムが反論!「その態度最悪」「…
  • 9
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中