ニュース速報

ワールド

アングル:ドイツ政党勢力図に変化の可能性、カギは難民対応

2016年01月05日(火)17時44分

 1月3日、ドイツの政局はこの10年間、メルケル首相が国政をしっかり掌握し、比較的安泰な状態が続いた。だが2016年は勢力図が塗り替わるかもしれない。写真はブリュッセルで昨年12月撮影(2016年 ロイター/Eric Vidal)

[ベルリン 3日 ロイター] - ドイツの政局はこの10年間、メルケル首相が国政をしっかり掌握し、比較的安泰な状態が続いた。だが2016年は勢力図が塗り替わるかもしれない。16州のうち5州で地方選挙が実施され、1年後の総選挙に向けた準備段階に入るためだ。

中東からの移民・難民を大量に受け入れるメルケル首相の姿勢が国民の賛否両論を呼んでいるのに加え、反移民の立場を表明している反ユーロ政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の躍進といった新しい動きもある。

また、有権者の支持政党はかつてないほど分散している。主要6政党がいずれの州でも議席を獲得する見通しで、通常は合意に基づいて進むドイツの政治状況が予想しにくくなり、あつれきを引き起こす可能性がある。

ワイルドカードとしては、イスラム過激派がドイツ国内で攻撃を引き起こす脅威が浮上している。12月31日の夜には攻撃が計画されている兆候があるとして、ミュンヘンの警察が鉄道の駅2カ所から市民を避難させた。仮に移民に紛れて入国した者が攻撃を成功させた場合、メルケル首相にとって命取りとなりかねない、と政府当局者は非公式に認めた。

たとえ回避できたとしても、難民対応は今年も引き続き政治的論争の中心テーマとなり、有権者の意見は二極化され、首相に対抗する右派・左派両勢力が活気づくことになるだろう。

ただ、今のところ難民政策への最も痛烈な批判が起きているのは、首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)の姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)の内部からだ。

ある政府高官は「移民・難民流入に歯止めがかからなければ、草の根レベルで政治を揺るがす可能性がある」と指摘。「首相が結果を出せない場合、AfDの支持率が20%に近づく恐れがある」と予想した。

<支持率伸ばすAfD>

世論調査での現在の支持率は8─10%。2013年の前回総選挙で同党が獲得した4.7%のほぼ2倍だ。このときは連邦議会で議席を確保できる5%にわずかに及ばなかった。

仏国民戦線(NF)やオーストリアの自由党といった極右政党がその2倍ほどの支持率を集めるのに比べて威圧感はないが、AfDが様々な内紛や資金面のトラブルを乗り越え、ドイツで支持を伸ばした意味は大きい。

資金難に陥ったAfDが支持者に寄付金を呼び掛けたところ、わずか3週間で約200万ユーロが集まったという。ここで証明された集票力は、3月に予定されている国内3州の選挙で発揮されそうだ。西部2州(バーデン・ビュルテンベルク州、ラインラント・プファルツ州)ではそれぞれ7%、東部1州(ザクセン・アンハルト州)ではほぼ2倍の支持率を獲得する見通しとなっている。

<分裂進むドイツ政局>

ドイツの政局は1990年の東西統一以来、最も分裂しているように見える。保守勢力では首相率いるCDUのほか、AfDが躍進し、親ビジネス政党の自由民主党(FDP)に復活の兆しがみられる。一方、左派勢力は社会民主党(SPD)と緑の党、左派党がリードしている。

今後のカギはメルケル首相が数カ月以内に難民対応でメドをつけられるかどうかだ。もし失敗すれば、首相はこの新たな政治状況で手痛い敗北を喫することになりかねない。成功すれば、最大の敗北者はメルケル政権を支える連立相手のSPDとなるだろう。

保守政党のAfDやFDPが勢いづくと、中道左派のSPDは地方レベルでも国政レベルでも傍流に追いやられ、一転して対決姿勢を強める可能性がある。2017年の総選挙が近づく中でメルケル政権の不安定要因に浮上することも考えられる。

(Noah Barkin記者 翻訳:長谷川晶子 編集:加藤京子)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

連邦政府の裁量的支出削減では債務問題は解決せず=F

ビジネス

米フォード、新車価格引き上げも トランプ氏の自動車

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 米関税で深刻な景気後退の

ビジネス

米国株式市場=急落、ダウ699ドル安 FRB議長が
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 9
    あまりの近さにネット唖然...ハイイログマを「超至近…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 10
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中