ニュース速報

ワールド

財政出動機運乏しい東南アジア、政治停滞や汚職摘発が足かせに

2015年05月29日(金)18時09分

 5月29日、東南アジアでは全般に経済が低迷するなか、金融政策にも限界が生じており、各国政府による財政出動への圧力が一段と増している。しかし各国政府は財政支出を増やせずにいる。写真はジャカルタ市内。10日撮影(2015年 ロイター/Darren Whiteside)

[ジャカルタ 29日 ロイター] - 東南アジアでは全般に経済が低迷するなか、金融政策にも限界が生じており、各国政府による財政出動への圧力が一段と増している。しかし各国政府は財政支出を増やせずにいる。原油安により政府予算に余裕が生まれたにもかかわらず、政治の停滞や汚職摘発などが公共投資を妨げているからだ。

東南アジア経済は勢いを失っており、最新データをみる限り第2・四半期に急反発するとも期待できない。特にアジアのけん引役である中国の需要にブレーキがかかったことが大きい。

28日の発表によると、フィリピンの1─3月の成長率は3年超ぶりの低水準となった。輸出低迷と政府支出の減少が響いた。域内最大の経済規模があるインドネシアは6年ぶり低水準に落ち込んだ。マレーシアも同様に成長が鈍化した。

さらに域内の大半の地域の消費者や企業は、ここ何年も享受してきた低金利や緩和マネーで重い債務を抱え、金融政策の効果が出にくくなっている。インフレ率上昇の兆しからも、さらなる利下げの余地は少ないとみられる。

2014年中盤以降、世界の原油価格が急落し、域内の多くの国で燃料補助金の負担が減ったとき、エコノミストは政府支出が急拡大すると予想したが、それは実現しなかった。

オーストラリア・ニュージーランド(ANZ)銀行は調査リポートで「(急落から)ほぼ一年がたち、主要経済国で財政出動にどうしても弾みがつかないことが明確になった」と指摘した。

インドネシアではジョコ大統領が原油安に乗じてガソリン補助金を撤廃し、浮いた資金をインフラ整備に投入しようとした。だが今年の設備投資予算220億ドルのうち、5月中旬までに消化されたのは4%にも満たない。官僚主義のせいで公共事業が大幅に遅れているためだ。

インドネシア中銀のマルトワルドヨ総裁は予算を使わなければ景気浮揚効果もないと指摘。「適切なタイミングで予算を執行する非常に大きな責任がある」と述べた。

タイの軍事政権は2022年までに980億ドルのインフラ支出を予定するが、多くのエコノミストが懐疑的だ。会計年度が始まってほぼ8カ月経過したが、100億ドルの設備投資予算のうち3分の2は未使用のまま。政府が汚職摘発を重視しているためだ。

クレディ・スイスのエコノミストは「政府のインフラ投資は引き続き、高い遅延リスクに直面する」とし、タイの今年の成長率予想を3.7%から3.1%に引き下げた。

フィリピンのアキノ政権も、政府支出の遅れが第1・四半期成長率を下押しした。ANZ銀行は「汚職スキャンダルの長引く影響から立ち直っていない」と分析した。

唯一の例外は財政に余裕の乏しいマレーシアだ。歳入の30%を占めるオイルマネーが激減したことで打撃を受け、巨額の財政赤字と比較的高い公的債務を抱える。景気対策を打つのは危険な状況だ。

HSBCのニューマン氏は、それ以外の国々では財政保守主義のために減税などに踏み切れず、「余力は十分あるのにまだ実行していない」との見方を示す。

ロイター
Copyright (C) 2015 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、シリア制裁解除で大統領令 テロ支援国家

ビジネス

ECBの次回利下げ、9月より後になる公算=リトアニ

ワールド

トランプ氏、日本に貿易巡る書簡送付へ 「コメ不足な

ワールド

米政権がロス市提訴、ICE業務執行への協力制限策に
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中