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アングル:中国株を「愛国買い」する個人投資家、対米貿易戦争で政府に援軍

2025年04月23日(水)18時32分

 4月22日、 中国南部広東省で住宅設計の仕事をするカオ・ミンジーさんは今月2日になるまで、株式取引とは無縁だった。写真は15日、上海の金融街に掲げられた中国旗(2025年 ロイター/Go Nakamura)

Samuel Shen Tom Westbrook

[上海/シンガポール 22日 ロイター] - 中国南部広東省で住宅設計の仕事をするカオ・ミンジーさんは今月2日になるまで、株式取引とは無縁だった。

だが、トランプ米大統領が「解放の日」と称して「相互関税」の詳細を発表し、米中貿易戦争に拍車がかかったこの日が、カオさんの心境を一変させた。

米国に対抗する中国政府への連帯感を積極的に示そうとして、カオさんは毎月2000元(約3万8500円)を国内株式市場に投資しようと決めたのだ。

カオさんは「目的は金儲けではない。祖国に貢献するという話だ」と語る。米国の関税引き上げが中国株に打撃を与えた後で証券取引口座を開設したといい、現在の貿易戦争においては「全ての個々人が最後まで国家に寄り添うべきだ」と強調した。

トレーダーやブローカーの話では、米中対立の新たな「戦場」となった中国の株式市場を下支えしようと政府の後押しで結成された「ナショナルチーム」に今、カオさんのような個人投資家の多くが合流しつつある。買いが集まっているのは、防衛や消費関連、半導体など政府が進める「自立自強」政策の恩恵を受けると目される分野だ。

カジノ並みの投機的な考え方に基づいて動くことで知られる中国の個人投資家が、こうした愛国的な熱に浮かれた行動をするのは非常に珍しい。ただ貿易戦争に起因するパニックを抑え、資本市場を安定させたい当局にとっては喜ばしい変化と言える。

金融情報会社データイエスによると、4日以降に中国の株式市場には個人投資家から差し引きで450億元が流入した。対照的に「解放の日」以前は6営業日連続で計918億元が流出していた。

過去を振り返ると2015年の株価急落や、当局によるハイテク企業締め付け後の局面では、民間投資家と政府系投資家は利害が衝突し、当局の市場救済措置の効果を台無しにしてしまった。

しかしトランプ氏が目の飛び出るほど高い関税を中国に課し、中国側が「いじめだ」と強く反発している今、この2つの投資家は足並みがそろっている。もちろん一部の個人投資家は単に、政府の迅速な対応や強い介入決意に乗じて買いに入っただけという面もあるだろう。

実際株価が7%下がった7日には、政府が後ろ盾となっている機関投資家が株式の購入を拡大すると表明し、証券会社は株価安定化を約束、幾つかの上場企業は自社株買い計画を明らかにした。

李強首相は先週、株式市場を落ち着かせるための取り組み強化を関係部門に促した。

そうした中で足元の株価は今月初めに記録した7カ月ぶりの安値から8%戻し、今月は米国株が大幅下落する中でも1.3%の下落に踏みとどまっている。

UBSセキュリティーズの中国株ストラテジスト、メン・レイ氏は「中国本土A株は戦略的重要度が高まっていると思う」と述べ、愛国的な買いによって投資家心理はそれなりに改善したとの見方を示した。

<損失上等>

中国北部、寧夏自治区出身で登山家のチョウ・リーフェンさんは、損失が生じても株式により多くの資金をつぎ込むと誓っている。

「愛国的であることは株式保有を続けるという意味になる」と述べ、現在消費関連と防衛の銘柄300万元相当を保有しているが、待機資金として700万元が手元にあると明かした。

飲食店事業主のシュー・ハオさんもこれまでに数百万元を中国株に投資。国内のスーパーマーケットや京東集団(JDドット・コム)などのオンライン小売り大手が貿易戦争で痛手を受けた輸出企業への支援に動いていることに感銘を受けたと話す。

ハイテクと消費関連の株式を買ったというシューさんは「国民がさまざまな形で愛国心を示している」と指摘した。

東部江蘇省の教師、ナンシー・ルーさんは「私の保有株は赤字だが全然気にしていない。米国のいじめに立ち向かう政府を強く支持する。1株も売らず、中国の市場防衛に貢献していく。個人投資家としてこれほど誇らしく感じたことはない」と胸を張る。

もう二度とスターバックスには行かず、ナイキのスニーカーは履かないという。

個人投資家の間で買われている銘柄の大半は、政府の自立自強政策の対象に含まれるか、米関税のために国際市場から閉め出された中国国内のトップ企業。セクター別に見ると「解放の日」以降には消費関連と半導体製造が値上がりしており、観光や農業関連も素早く反発している。

中国で投資手段として人気が高まる一方の上場投資信託(ETF)にも大量の資金が流入した。

国営メディアの報道によると、7日の株安以来で中国株ETFに2300億元余りが流れ込み、運用総額は初めて4兆元を突破した。ただこのデータでは、個人投資家の資金がどのぐらいの割合かは分からない。

<機関投資家も変化>

中国の一部機関投資家にも愛国主義による資産構成変更の動きが見える。

ヘッジファンドマネジャーのヤン・ティンウ氏は、手元に残っていた資金全てを株式に振り向けたと説明。報復の応酬でエスカレートが続く米中貿易摩擦について「これは、単に銃砲の硝煙を伴わないだけで戦争に変わりはない」と言い切った。

農業やエネルギー、金融、防衛などの銘柄に投資しているというヤン氏は「運用資産だけでなく国家の命運を賭けている」と主張した。

上海に拠点を置くマイノリティー・アセット・マネジメント創業者のリーアム・チョウ氏は、中国株に総額10億ドルを投資したと述べた。

ロイター
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