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アングル:公的資金による中国株支援策、効果に疑問も 回復の鍵は市場環境

2025年02月14日(金)07時48分

 中国当局が、苦境にある株式市場の復活とリバランスを支援するよう、大手金融機関に指示している。写真は、旧正月の飾りで飾られた北京証券取引所。2024年2月、北京で撮影(2025年 ロイター/Florence Lo)

Samuel Shen Vidya Ranganathan

[上海/シンガポール 12日 ロイター] - 中国当局が、苦境にある株式市場の復活とリバランスを支援するよう、大手金融機関に指示している。ただアナリストからは、この計画には一定のメリットがあるが回復を促すかどうかは疑わしいとの声がでている。

中国当局は以前にもこの手法を使ったことがあり、その時はある程度の成功を収めた。しかし現在は、株式市場と低迷する経済が互いに食い合い、個人消費と民間投資を妨げるという悪循環に陥っている。

上海・深セン株式市場上場の有力企業300銘柄で構成するCSI300指数は今年1%下落。コロナ禍後の経済再開以来、辛抱強く待っていた人々は、全体として中国株で9%もの損失を被った。

株安に歯止めをかけたい中国共産党は、資本主義の「アニマルスピリッツ」を模倣しようと公的資金に目を付けた。国有の保険会社や投資信託に株価を下支えするため数十億ドルを投入するよう要請したのだ。

CAインドスエズのアジア担当チーフストラテジスト、フランシス・タン氏は「どうして今、彼らがこのような措置を取っているのかは理解できる」と指摘。「資産価格を固定できれば、信頼感が高まり、信頼感が高まれば、実需が生まれ、経済成長を実現することができる。つまり、資産価格という角度からセンチメントを修正しようとしているわけだ。彼らは今、好循環を起こそうとしている」と分析した。

中国は、デフレの深刻化、不動産価値の低迷、政府債務問題、そして最近では米国との新たな貿易戦争がセンチメントを悪化させているため、前向きなムードを切実に必要としている。

規制当局は10年以上前から、リテール中心の株式市場にもっと長期投資家を呼び込もうとしてきたが、このたび具体的な目標を定めた。

証券監督管理委員会の呉清主席は、大手国有保険会社に対して新規保険料収入の30%を中国上場株に投資するよう奨励。投資信託には株式保有を今後3年間で年10%増加させることを求めた。保険会社が今年上半期、パイロットスキームを通じて株式に少なくとも1000億元(138億ドル)を振り向けることを期待するともした。

投資信託は指令に対応するため、株式ファンドを増やそうとと躍起になっている。データプロバイダーのイースト・マネー・インフォメーションによると、100本以上の商品が販売中もしくは準備中という。

この政策によって、保険会社や投資信託から毎年少なくとも1兆元(約1381億ドル)が国内株式市場に投資されると推定されている。

<「安定剤」期待>

この措置はまだ市場の上昇にはつながっていないが、いずれはプロの投資家を惹きつけ、呉主席が期待する「安定剤」になるかもしれない。

弱気相場に入って4年になるCSI300指数は、10年前の水準で取引されている。時価総額は2015年以来、ほぼ変わっていない。

ジャナス・ヘンダーソンのポートフォリオマネジャー、サト・ドゥフラ氏は、こうした措置が持続的な影響力を持つには根本的なマクロ経済の問題への対処が必要と指摘。「歴史をさかのぼって中国の消費にとって何が重要だったかを見てみると、それは家計所得であり雇用だ。株式市場が富を生み出す効果でもなければ、金利でもない」と語った。

華西証券のデータによると、機関投資家は中国で取引可能な株式のうち19%を保有しており、30%を保有する個人トレーダーに圧倒されている。1日の売買高は個人が約70%を占める。

北京を拠点とする資産運用会社、Lingtong ShengtaiのDong Baozhen会長は、今回の措置は脆弱な株式市場にとって解決策になり得ると述べた。

「過去30年にわたる中国株の周期的な好不況は、価格決定権が間違った手に渡った結果だ。政府はその力を投機筋から取り戻そうという強い政治的な意思を持っている」と指摘。当局のアメとムチを使ったアプローチは、現在市場で存在感の薄いリスク回避的な保険会社の影響力を高め、銀行などの高配当銘柄に利益をもたらす可能性があると述べた。

政府の一連の後押しの下、保険会社による株式投資は、既に過去4カ月で30%以上増加し、4兆4000億元にまで跳ね上がっている。投資信託による株式保有残高は7兆元に上っている。

それでも、一部のアナリストは、デフレの長期化、高齢化、地政学的緊張に直面する経済に長期的な賭けをすることを疑問視している。

あるトレーダーは「問題の核心は資本の性質ではなく、市場環境だ。公的資金をジャガイモに見立て、保険資金をバラに見立てるとする。土に撒けば育つが、劣悪な場所に撒けば枯れてしまう」と述べた。

ロイター
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