アングル:USスチール買収阻止の動き、日本企業の海外進出に警鐘
9月6日、日本製鉄によるUSスチール買収を阻止しようとする米政府の動きを受けて、日本企業は今後海外での取引をより注意深く精査することになると専門家は指摘する。写真は日本製鉄のロゴ。都内で4月撮影(2024年 ロイター/Issei Kato)
Kane Wu Yantoultra Ngui Miho Uranaka
[香港/東京 6日 ロイター] - 日本製鉄によるUSスチール買収を阻止しようとする米政府の動きを受けて、日本企業は今後海外での取引をより注意深く精査することになると専門家は指摘する。
バイデン米政権が国家安全保障上の懸念を理由に日鉄によるUSスチール買収計画を阻止する方針を近く発表すると4日に報じられた。
資産の買い手も売り手も、既に政治動向の分析に時間をかけ、対象が国家介入を引き起こしそうな業界かどうかを精査していると東京のある金融関係者は語る。
日本はここ数年、米規制当局と問題を起こしたことはなく、国内企業は円安と国内経済の低迷を踏まえて海外資産を評価してきた。
しかし、対米外国投資委員会(CFIUS)は日鉄に送った8月31日付の書簡で、日鉄によるUSスチール買収が国内プロジェクトへの鉄鋼供給に影響を及ぼし、国家安全保障上のリスクになるとの考えを示した。
CFIUSは、中国企業が高級ホテルのウォルドーフ・アストリアやIT機器のイングラム・マイクロといった米企業を買収し、米資産を積極的に取得していた約10年前から監視強化に動いている。
複数のアドバイザーは、USスチール買収に共和党と民主党の多くの議員が反対するなど大統領選挙があるため問題が複雑になっているが、11月の選挙後には反対の声は収まる可能性があると指摘する。
ニューヨークを拠点とする投資顧問会社BDAパートナーズの共同設立者兼マネージング・パートナーのユアン・レリー氏は「選挙の勝者がどちらであっても金融市場からはこの案件を受け入れるよう圧力がかかるだろう」と述べた。
とはいえ東京のM&Aをてがける金融関係者によると、日本企業は日鉄の事態を非常に懸念しており、不成立となった場合は違約金が跳ね上がり買い手はより慎重になるとみられている。
米調査会社ディールロジックのデータによると、年初からの日本から米国へのアウトバウンドM&A(合併・買収)は160%増の321億ドルに達し、日本のアウトバウンドM&A総額の71.4%を占めている。この割合は前年は38.7%だった。
法律事務所ウィルソン・ソンシーニのシニアパートナー、Weiheng Chen氏は「CFIUSの決定は、フレンドショアリングの政策的傾向や、CFIUSの審査プロセスにおける重要な同盟国としての日本の地位を変えるものではない」と述べた。
ディールロジックのデータによると、昨年の日本の対外買収の取引額は45%増の658億ドルだった。企業がデフレ状態にある国内経済の影響を和らげるために別の収益源確保に動いたことが背景にある。
過去10年の日本からの米企業買収規模からみて、USスチール買収額(150億ドル)は、2020年のスピードウェイ買収(210億ドル)、14年のビーム買収(160億ドル)に次ぐ3番目の規模になる。
前出のレリー氏は、米国と欧州の資産買収に向けたアジア勢の「高波」が見込まれる中、クロスボーダーM&Aの阻止は経済的にも政策的にも悪いとの見方を示した。
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