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アングル:「ポテチショック」再来あるか、企業が気候対策強化
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10月5日、予想外の豪雨や気温急変などの天候不順が相次ぐ中、企業が気候変動ショックに備える新たな対策に動き始めている。ジャガイモ被害でポテトチップスが小売店の棚から消えた「ポテチショック」は象徴的な出来事で、国が予算措置で支援する事態となった。写真は北海道の中富良野の畑で2009年9月撮影(2017年 ロイター/)
[東京 5日 ロイター] - 予想外の豪雨や気温急変などの天候不順が相次ぐ中、企業が気候変動ショックに備える新たな対策に動き始めている。ジャガイモ被害でポテトチップスが小売店の棚から消えた「ポテチショック」は象徴的な出来事で、国が予算措置で支援する事態となった。
問題は「ポテトチップス」だけではない。「安心・安全」を求めて国産野菜にシフトした外食企業や天候で需要が左右される食品メーカーは、天候リスク戦略を一段と強化し、産地の分散や需要予測の高度化などに乗り出している。
<消えたコーン>
「具材が全く消えてしまったのは、初めてだった」。リンガーハット <8200.T>執行役員、購買チーム担当の杉野隆宏氏は昨年夏に北海道を直撃した台風の被害をこう振り返る。主力商品である「長崎ちゃんぽん」に入っていたコーンが豆苗に代わったのは、16年産コーンが通常の30―40%程度しか収穫できず、年間を通して安定的に提供することが難しくなったからだった。17年産はめどがつき、8月から9月にかけて、コーンが復活した。
北海道を襲った台風は、消費者に身近なポテトチップスも翻弄した。最大手のカルビー <2229.T>では、原料のジャガイモ不足により、今年4月以降、一部商品の販売終了や販売休止に追い込まれた。
カルビーは、加工用として日本で栽培されているじゃがいも53万トンのうち30万トン、約60%を使用しており、なかでも、使用量の40%強を占める十勝地区が台風で大きな被害を受けた。天候不順による食品メーカーのリスクを改めて浮き彫りにした事態だった。
<産地分散の試み>
カルビーの原料部門を担うカルビーポテト(北海道帯広市)の植村弘之常務は「今年の生育は順調」と話す一方、気象変動に強いじゃがいもの調達実現は緊急課題であるとし、生産者と協力して、産地の分散や品種改革などに取り組んでいる。産地については、北海道内での地域拡充のほか、岩手県や宮城県、熊本県にも調達先を広げ、澱粉用じゃがいもの生産地や水田地帯での栽培を進める方針。これにより、5年後には2―3万トンの収穫を目指す。
農林水産省は、来年度の概算要求にじゃがいも農家支援のための予算約30億円を計上。農作業の効率化などで増産につなげ、ポテチショックの再発防止に乗り出す。
リンガーハットではこれまでも食材については複数の産地から、安定的に収穫できるようにしてきた。しかし、主役の野菜であるキャベツは年間約1万トンが必要。天候不順だった昨年は、やむを得ず、割高な調達も行ったという。
コーンのように、いまは北海道産だけに頼っている食材については「他の産地で取り組めないか調査中」(杉野氏)だ。コーンは収穫してから時間が経てば経つほど、甘みが薄れる。同社が使用する北海道産のコーンは、収穫から12時間以内に凍らせており「同様のスピードで対応できるところは、非常に限られている」ため、産地の分散化も簡単には進んでいない。
餃子の主要食材や麺料理の麺で国産小麦を使用している「王将」(王将フードサービス <9936.T>)は「現時点で食材の調達に支障は出ていないが、材料価格への影響は、今後出てくると思う」としたうえで、「調達先からの情報収集を重ね、早めに産地を変えるなどの対応を講じている」という。
<天候不順は需要面にも影響>
「天候は消費量に大きく関係している。梅雨入りした途端に梅雨が明けたような天気になり、梅雨明けと同時に梅雨入りしたような状況。天気に振り回されているが、われわれではどうしようもない」と、キリンホールディングス <2503.T>の磯崎功典社長は、今夏の天候不順にため息を漏らす。8月のビール類(ビール、発泡酒、新ジャンル)の販売数量は、サントリーを除く3社で6―7%減と落ち込んだ。 「今夏は猛暑」という事前予想に反し、関東で8月に40年ぶりの長雨記録となるなど、場所によっては「冷夏」と言える夏に終わり、需要予測が大きく狂わされた。
日本気象協会(東京都豊島区)は、2014年度から3年間、経済産業省の補助事業としてプロジェクトを進め、豆腐や冷やし中華のつゆ、飲料などの分野で、需要予測を示すことで、廃棄ロス減やCO2削減につなげてきた。
例えば、冷やし中華のつゆの場合、6―7月に需要が増加し、8―9月には減少、その後は廃棄になる。需要予測を使うことで、150ミリリットル入りは最終在庫を35%削減、360ミリリットル入りでは90%削減できたという。
気象協会は17年4月に「先進事業グループ」を創設し、これを事業化。さらに8月からは、市場調査・マーケティングのインテージ(東京都千代田区)が持つ「SRIデータ(全国小売店パネル調査データ)」の提供を受け、予測の精度を高め、幅を広げている。
同グループの中野俊夫技師は「全産業の3分の1は、何らかの気象リスクを持つ。気象は物理的に将来を予測できる」と話し、今後、化粧品やヘルスケアなどの分野にも需要予測の領域を広げる可能性があるとしている。現在「3桁の企業から問い合わせが来ている」という。
こうした需要予測の活用を模索する企業がある一方で、アサヒグループホールディングス <2502.T>は「夏場の構成比をいかに引き下げるか」(小路明善社長)という対応を進めている。ワインなどビール類以外の酒類にも力を入れるほか、10月のハロウィンや2月のバレンタインなど、夏場以外のイベント時の需要を喚起し「暑いから飲むということではないシーンを増やし、夏場の天候不順をカバーしていく」としている。
(清水律子)