ニュース速報

ビジネス

「弾劾リスク」に怯える日本市場、海外勢主導の円高・株安が進行

2017年05月18日(木)18時11分

 5月18日、トランプ米大統領(写真左)の弾劾を巡る懸念が浮上したことで、リスクオフの動きが強まっている。日本市場にとっては、海外勢による株売りと円高進行が当面の警戒ポイントだ。ペンス副大統領(同右)が就任すればポジティブ要因との指摘もあるが、弾劾プロセスに入れば時間がかかる。15日撮影(2017年 ロイター/Kevin Lamarque)

[東京 18日 ロイター] - トランプ米大統領の弾劾を巡る懸念が浮上したことで、リスクオフの動きが強まっている。日本市場にとっては、海外勢による株売りと円高進行が当面の警戒ポイントだ。ペンス副大統領が就任すればポジティブ要因との指摘もあるが、弾劾プロセスに入れば時間がかかる。

市場の嫌う不透明感がしばらく重しになるかもしれない。

<長い弾劾(Impeachment)プロセス>

合衆国憲法第2条第4節:「大統領並びに副大統領、文官は国家反逆罪をはじめ、収賄、重犯罪や軽罪により弾劾訴追され、有罪判決が下れば、解任される」──。米大統領の弾劾を規定した条文だ。

米国大統領の弾劾プロセス(以下参照)は、大まかに言えば、下院が訴追権を有し、上院が有罪か無罪かを判断する裁判権を持つ。下院の訴追だけで大統領職を辞める必要はないが、上院はそれを裁判し、3分の2以上の賛成があれば罷免が決まる。

現在の米議会の勢力図では、下院の過半数獲得には、民主党議員全員が賛成に回った上に、共和党議員25人の賛成が必要。上院の3分の2獲得には19人必要だ。現状では、弾劾・罷免の可能性は低いようにもみえる。

しかし、トランプ米大統領を巡るロシア関連の疑惑が深まる中、少数ながら共和党内からも独立調査を求める声が強まっていることが判明。ある共和党議員は弾劾の可能性にも言及した。市場は、大統領辞任の可能性を織り込み始め、リスク回避の株安・ドル安が広がっている。

「このまま辞任するかはわからないが、弾劾プロセスに入れば、最低数カ月かかる。市場が最も嫌う不透明感はしばらく払拭(ふっしょく)できない。株式などリスク資産には重しになりそうだ」と、T&Dアセットマネジメントのチーフエコノミスト、神谷尚志氏は話す。

<「ペンス大統領」(President Mike Pence)に期待も>

将来的にはトランプ大統領の職務「離脱」が、市場にとってポジティブ材料となる可能性もある。ペンス副大統領が就任する場合だ。米国の「大統領継承法」では、副大統領(兼上院議長)が第1位、第2位が下院議長、第3位が上院議長代行となっている(以下、17位まで続く)。

市場が一番懸念しているのは、減税など政策の遅れであって、過激な発言や行動が目立ち、党内の離反を招いているトランプ大統領よりも、ペンス副大統領の方が政策実現度が高くなるとの見方もある。「保守派でライアン下院議長とも良好な関係を築いている」(国内投信)という。

「財源問題などが解決されるわけではないが、少なくとも党の結束は強まり、政策も通りやすくなるだろう。日本企業の進出が多いインディアナの元州知事であり、日本のとってもプラスではないか」と、三井物産戦略研究所・国際情報部北米・中南米室研究員の安田佐和子氏は話す。

しかし、ペンス副大統領が就任するにしても、まだ相当な時間がかかる見通しだ。

過去に弾劾訴追された米大統領は2人(ともに罷免は回避)。1868年のジョンソン氏と1998─99年のクリントン氏だ。クリントン氏のケースでは下院の弾劾決議から上院が弾劾決議を見送るまで約5カ月かかっている。

また、ニクソン氏のように、下院司法委員会が弾劾可決した後、自ら辞任するケースもある。弾劾もなく辞任すれば別だが、ウォーターゲート事件が発覚した1972年6月から下院司法委員会が弾劾訴因を承認した1974年7月まで、約2年を要している。

<日本市場には向かい風(Headwind)>

不透明感が強まる中では、日本市場に海外からの「向かい風」がしばらく吹き続けそうだ。米利上げ期待の後退で、ドル/円は一時110円台後半まで軟化。日経平均<.N225>は海外勢の売りが強まる中、一時1万9500円割れまで下落した。

国内上場企業の今期純利益予想は、約11%増益と堅調。日経平均の予想株価収益率(PER)は14倍前半と割高感は乏しい。しかし、日経平均が3週間の間に年初来安値と年初来高値を付けるなどジェット・コースターのような相場を主導するのは依然として海外勢だ。

米S&P500<.SPX>のPERは21倍。日本株に割高感は乏しくとも、米株がバリュエーション調整に入れば、リスク許容度が低下した海外勢の売りに振らされる。いずれ堅調な業績が再評価されたとしても、足元でリスク回避の動きが強まれば、日銀のETF(上場投資信託)買いだけで押しとどめるのは難しいだろう。

さらに円高が進めば、堅調な業績にも影響が出る。一巡した国内企業の3月期決算発表では、今期の想定為替レートは1ドル105円から110円の間が多かった。110円を切ってくれば、業績下振れ懸念が強まる。

JPモルガン・アセット・マネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジスト、重見吉徳氏は「6月の米利上げを見送れば円高。6月に利上げを断行したとしても、今の状況ではリスクオフの円高が起きる可能性がある。いずれにせよ円高で、日本株を圧迫する展開が続きそうだ」との見方を示している。

*米国大統領、弾劾のプロセス

「米下院」(議席数435:共和党238、民主党193)

1)下院議員あるいは特別検査官の助言などで下院が弾劾を発議。

2)司法委員会、議事運営委員会が訴因調査を決議。

3)司法委員会が調査、過半数の指示で弾劾勧告。

4)下院全体で協議後、過半数(218議席)の賛成獲得で訴追が決定し、上院へ。

「米上院」(議席数100:共和党52、民主党48)

1)上院で審理開始。最高裁長官が裁判長、上院議員は陪審員、下院調査担当者が検事役、ホワイトハウス法律顧問が弁護士役となる。

2)公聴会を開催後、上院全体で審議。

3)上院の3分の2(67議席)による賛成で大統領は罷免される。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

ロイター
Copyright (C) 2017 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ難民キャンプ、イスラエルの空爆で8人死亡=医療

ワールド

ロシア西部クルスク州にウクライナのミサイル、6人死

ワールド

米、中国半導体設計会社をブラックリストに ファーウ

ビジネス

ユーロ圏消費者信頼感指数、12月はマイナス14.5
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「汚い観光地」はどこ?
  • 6
    国民を本当に救えるのは「補助金」でも「減税」でも…
  • 7
    クッキーモンスター、アウディで高速道路を疾走...ス…
  • 8
    「え、なぜ?」南米から謎の大量注文...トレハロース…
  • 9
    大量の子ガメが車に轢かれ、人間も不眠症や鬱病に...…
  • 10
    「中国を止めろ!」沖縄上空で米軍<核>爆撃機と航…
  • 1
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 2
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いするかで「健康改善できる可能性」の研究
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 5
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 6
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 7
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 8
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中