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焦点:ユーロに冷めるイタリア人、通貨存続の新たな「断層」に

2017年04月14日(金)09時07分

 4月12日、ユーロ圏の存続を脅かす最大の要因はもはや、ギリシャやポルトガルといった小規模な周縁国ではなく、圏内第3の経済大国であるイタリアがユーロに背を向ける可能性かもしれない。写真はユーロ硬貨と地図。ローマで2月撮影(2017年 ロイター/Tony Gentile)

[ロンドン 12日 ロイター] - ユーロ圏の存続を脅かす最大の要因はもはや、ギリシャやポルトガルといった小規模な周縁国ではなく、圏内第3の経済大国であるイタリアがユーロに背を向ける可能性かもしれない。実際に同国が脱退するリスクは小さいが、想像を絶する出来事というわけではない。

最近発表された2つの報告書は、イタリア国民にとってユーロが何を意味し、なぜ彼らのユーロ熱が薄れたのかを良く示している。同国民はユーロ加盟前より貧乏になり、主な貿易相手国ドイツに対する競争力も落ちたのだ。

昨年12月に欧州連合(EU)の統計局(ユーロスタット)が公表した報告書は、国民の購買力を示す1人当たり国内総生産(GDP)を2004年と15年で比較。EU加盟28カ国の基準を100とした場合、ドイツはこの間に120から124に上昇した半面、イタリアは110から96に落ち込んでいる。

この結果、イタリアの水準は大国ドイツより、チェコ、スロバキア、スロベニアといった新興国に近くなった。フランスはほぼ横ばいの106だ。

つまりイタリア国民は、独自通貨リラを捨ててユーロを採用した数年後の2004年に比べ、購買力という点で貧乏になっている。

<輸出競争力>

もう1つの報告書は、調査団体ワールド・エコノミクスが今月発表したもので、ユーロ圏内でドイツの輸出競争力が大幅に高まった一方、イタリアは悪化していることが分かる。

同団体は、代表的な財とサービスを米ドル建てでバスケット化し、それを他通貨の購買力と比較する「世界物価指数(WPI)」を算出。これにより、ユーロ圏については「ドイツ版ユーロ」、「フランス版ユーロ」、「イタリア版ユーロ」といった各国毎の実質的な為替レートを求めることができる。

この2年間で「イタリア版ユーロ」はドルに対しては3%の過大評価から4%の過小評価に転じた。しかし「ドイツ版ユーロ」に対しては過大評価の幅が14%と、2%ポイント拡大している。つまりドイツに輸出するイタリア企業の価格競争力は悪化し、イタリアにおけるドイツ製品の価格競争力は向上した。

報告書によると、輸出競争力という点ではフランスやギリシャなど、イタリア以上に悪い状況に置かれている国もある。ただ、イタリアがユーロ圏を揺るがしかねない新たな「断層」として浮上してきたことが分かる。

「イタリアは、ドイツ経済の強さに押され次に倒れる『ドミノ』になりそうだ。この流れは過去1年間でさらに顕著になった」とワールド・エコノミクスは指摘している。

これらの現象がユーロの採用自体に起因しているとは言い切れないが、イタリアは成長率も1%に届かず、企業の設備投資やインフラ投資も減少している。国民がユーロ加盟を良いことだと思わなくなったのも無理はない状況だ。

3月の世論調査では、イタリアのユーロ離脱を問う国民投票の実施を求めている反体制派政党「五つ星運動」が支持率を33%程度に伸ばした。やはり反EUを掲げる政党「北部同盟」も12%程度の支持率を確保しており、他にも反EU政党は存在する。

(Jeremy Gaunt記者)

ロイター
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