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焦点:トランプ政権のドル安志向、世界最大の債務国に不都合も

2017年02月01日(水)18時36分

 2月1日、トランプ米政権は、通貨安批判の矛先を中国から日本、ドイツへと広げ始めた。米国内の製造業を保護するのが目的とみられるが、通商政策と表裏一体となったドル安政策は米国にとって不都合な事態をもたらしかねない。1月31日撮影(2017年 ロイター/Carlos Barria)

[東京 1日 ロイター] - トランプ米政権は、通貨安批判の矛先を中国から日本、ドイツへと広げ始めた。米国内の製造業を保護するのが目的とみられるが、通商政策と表裏一体となったドル安政策は米国にとって不都合な事態をもたらしかねない。世界最大の債務国である米国は、世界のマネーを引き寄せることで赤字をファイナンスしなければならないためだ。

<米要人発言にドル急落>

トランプ大統領は1月31日、製薬会社幹部との会合で「中国が現在行っていること、日本がこれまで何年も行ってきたことをみてみれば、彼らがマネーマーケットや通貨安を手玉に取っているのを、我々は愚か者のように座して眺めているだけだ」と述べた。

また、大統領が新設した「国家通商会議」の責任者、ピーター・ナバロ氏は同日、ドイツは「過小評価が著しいユーロ」を利用することで、米国や欧州連合(EU)の貿易相手国よりも有利な立場を得ている、との見解を示した。

市場は、これらをドル高けん制発言と受け止め、31日の海外市場で、ドル/円は急落。一時、約1.5%下げ昨年11月30日以来の安値となる112.07円を付けた。ユーロ/ドルも1%強上昇し1.0811ドルと、昨年12月8日以来の高値となる場面があった。

<他国の金融政策に言及>

今回トランプ大統領の発言で注目されたのは、他国の金融政策に言及したと受け止められる内容があったことだ。

大統領は、米企業の競争力が弱いのは「他国が通貨や通貨供給量、通貨安で有利な立場を確保してきたという事実と大いに関係している」と指摘。「米国はひどい状況におとしめられてきた」と、通貨安の原因として他国の金融政策にも矛先を向け始めた。

浅川雅嗣財務官は1日、「日本の金融政策はデフレ脱却という国内政策目的でやっているのであって、為替を念頭に置いたものではない。為替介入も最近はやっていない」と述べ、トランプ大統領の批判を退けた。

しかし為替市場では、2013年4月に日銀が導入した量的・質的金融緩和(QQE)から始まり、昨年9月の長期金利のゼロ%誘導まで続く超金融緩和政策が、ドル高/円安の基本的な背景になってきたとの見方は多い。

「そもそも、デフレで需要がないことが分かっている状況下での異次元緩和は、緩和本来の目的であるカネ回りを良くすることではなく、間接・直接的に円安が生まれ、輸入物価の上昇と株高という三方良しを追求する政策だった、とトランプ大統領が理解している可能性が出てきた」と三井住友銀行・チーフストラテジストの宇野大介氏は分析する。

これまでドル高による機会損失を黙って受け入れてきた米国が、その原因である金融緩和を止めるべきとの「直球」を投げてきた場合、日本は難しい対応を迫られるだろう、と同氏はみている。

ユーロの状況も似通っている。欧州中央銀行(ECB)が14年半ばに中銀預金金利を初めてマイナス圏に引き下げたことが、ユーロ安/ドル高の基本的な立て付けを造った。

<最終的な「ツケ」は米国に>

通貨政策と一体化した通商政策や拡張的な財政政策により、経常赤字が縮小する可能性もある。

しかし、それは経常赤字が財政赤字に置き変わっただけであり、ストックベースでも世界最大の対外債務残高(円換算で886.5兆円)を抱える米国が、その赤字ファイナンスを外資に依存する構造は変わらない。

米国は海外からの安定的な資本流入が必要で、日欧の金融緩和は国内の金利の低下を促し、相対的に米国証券の魅力を高めてきた。

日銀の中曽宏副総裁は、利上げを進める米国と、金融緩和を推進している日欧の金融政策の方向性の違いが「日欧の金融機関のドル建て金融資産への投資を促している」(20日の講演)との認識を示している。

米国際収支統計によれば、外国から米国への資本フローは13年第4・四半期に1759億ドルの流入超でピークアウトしたあと急激に縮小し、14年第4・四半期には79億ドルの流出超まで落ち込んだ。

しかし、日欧の金融緩和によるドル資産需要の「反射的効果」で急速に回復、16年第3・四半期には2200億ドルの流入超まで膨らんでいる。

この間、ドル指数<.DXY>は上昇。今年1月3日には103.82に上昇し、近年の最高値を付けている。米国資産に海外の資金が集まるからこそドルの需要が高まり、ドル高が生じるともいえる。

ただ「米経済はドル高に弱くなっている。米企業の海外売上比率が上昇しており、ドル高局面で収益が目減りしている」(日本総研・調査部長の山田久氏)とされ、ドル高への耐性が低下し、それが米国のドル安攻勢や金融緩和批判につながっている。

しかし、米国への資本流入が細る可能性は、金融という経路のみではない。

米国の保護貿易と相手国の報復措置により「モノの移動が滞るだろう。モノが滞れば、必然的に資金も滞るはず」(大手機関投資家)とみられ、モノと資金の総すくみとなった場合、最も大きなダメージを受けるのは、これまで自由なモノと資本の流れに大きな恩恵を受けてきた米国自身となりかねない。

(森佳子 編集:伊賀大記)

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