ニュース速報

ビジネス

労働分配率低下し、正規処遇下げずに非正規改善可能=加藤担当相

2016年12月19日(月)20時33分

 12月19日、加藤勝信・働き方担当相(写真)はロイターとのインタビューで、非正規社員の待遇改善は、企業の労働分配率が低下している中、正規社員の処遇を下げることなく実行可能な環境にあるとの認識を示した(2016年 ロイター/Issei Kato)

[東京 19日 ロイター] - 加藤勝信・働き方担当相は19日、ロイターとのインタビューで、非正規社員の待遇改善は企業の労働分配率が低下している中、正規社員の処遇を下げることなく実行可能な環境にあるとの認識を示した。それにより、企業の生産性改善や、マクロ的な所得・消費改善にもつながるとした。

また、長時間労働の背景には月80─100時間という高い残業上限があるため、「36協定」における残業条件は心身への影響がないよう、それよりも低めに抑制する考えをにじませた。3月の実行計画とりまとめまでに具体的条件を示す。その後、労働関連法案の改正作業に入り、速やかに国会提出を図りたいとした。

詳細は以下の通り。

──あす発表される同一労働同一賃金ガイドラインは非正規社員の差別的処遇改善につながる第一歩となるが、企業が労働コスト増などを理由に消極的な姿勢を示している。どう実効性を担保するのか。

「今回のガイドラインはまず『働き方改革実現会議』で議論し、その後労働契約法など3つの法改正につなげていく。法改正後は、それを実行するためのガイドラインという位置づけが1つ。さらに、実際に企業が自分の会社での非正規社員の処遇がどうなっているのか議論することにもつながる。また法改正により、司法判断の根拠ともなる。そうした意味で実効性の確保を後押ししていくことになる」

「特に大企業では正規・非正規の賃金格差が大きい。労働市場がタイトになってきており、労働分配率がここ4、5年低下していることから、正規の雇用者の処遇を下げることなく非正規社員の処遇を改善することが可能な環境にあるとみている」

「生産性が上がらないと賃金が上がらないが、非正規社員の賃金が上がることで正規社員の付加価値も上がることを期待している。また正規・非正規を問わず職業訓練の場が設けられれば、非正規社員の能力向上にもつながる」

「またマクロ的に見ると、非正規社員の処遇を改善することは働く人にとって選択肢の幅を広げることにもなる。より多くの人が働けることになり、それが所得の拡大を通じて消費の拡大にもつながり、経済にとってもプラスになると考えている」

「非正規社員の時給については、欧州では正規を100とすると80から90程度となっており、日本もそん色のない水準にという思いはある。ただ、具体的な水準としてどこまで上げられるかよりも、まずはその方向に動いていくことが大事だ」

──法改正の時間軸はどの程度を見通しているのか。来年度中には国会に提出するつもりか。

「一連の法改正は、3月の実行計画での取りまとめ後、直ちに法改正の議論に入り、できるだけ速やかに国会に提出していきたい」

──長時間労働の是正に向け「36協定」における時間外労働の上限を設定する場合、月80時間という「過労死基準」は1つの基準となるか。

「実態としては月に80から100時間という高い残業上限が長時間労働の背景となっているとみている。月100時間を超える時間外労働、2─6カ月間にわたる80時間以上の時間外労働は心身に影響すると指摘されている。それも踏まえながら上限について議論し、遅くとも3月の実行計画取りまとめまでには具体的に示したい」

「それを含めて法改正に入っていくが、その段階では基本的には全ての業種に上限を設定したいが、業種によってはどういう扱いををしたらいいのか、どの程度の時間で規制をかけていくのか議論していくことになる」

──長時間労働の実態としては、そのうち賃金が支払われないサービス残業もかなり含まれている。そうした実態にどう対処していくのか。

「働いた時間は賃金を支払うということが基本。法の厳格な運用、執行をしっかり行うことに尽きる」

「長時間労働の是正は、健康な心身の維持がまず第一。またそれがないと生産性の高い仕事もできないこと、さらには海外からの高度人材にも来てもらえることなどの観点が必要。また女性のフルタイムでの労働参加や男性の育児の障害などが少子化の背景になっている。そうしたことを踏まえて議論していきたい」

──外国人労働者の受け入れについては議論の対象とならないのか。

「すでに専門的人材に入ってもらいやすよう、ビザや資格条件の引き下げを行うなど、働きやすい環境整備を展開している。さらに建設労働者など幅広い人材については、全て日本人だけでできるということにはならない。どういった分野でどういった人材が必要となるのかなど、具体的な議論を進めていきたい」

「外国人留学生、またその他の外国人についても、具体的な議論を進めていきたい。ただ、移民政策について国民の理解を求めながら行う必要があり、時間のかかる問題だ。まずは国内の女性や高齢者の力の活用を先に、働き方改革で議論することになる」

*内容を追加しました。

(中川泉 Stanly White 編集:田巻一彦)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

NATOのウクライナ巡る行動に「核紛争リスク」、ロ

ビジネス

トランプ氏、4月2日の相互関税発動に変更なし

ビジネス

米2月の卸売物価は前月比横ばい、関税措置が今後影響

ワールド

トランプ氏「ロシアの正しい対応に期待」、ウクライナ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ?
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 5
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 6
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 7
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 8
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 9
    「トランプの資産も安全ではない」トランプが所有す…
  • 10
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 8
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中