ニュース速報

ビジネス

アングル:マイナス金利が促す劣後ローンのドル転換、将来の円安要因に

2016年06月03日(金)17時25分

 6月3日、日本企業が劣後ローンで調達した資金をドルに転換して外貨預金するニーズが高まっている。写真は都内で2月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 3日 ロイター] - 日本企業が劣後ローンで調達した資金をドルに転換して外貨預金するニーズが高まっている。日銀のマイナス金利が適用される新規の円預金増加を避けたい邦銀の提案を、少しでも利息が欲しい企業が受け入れる傾向にあるという。為替ヘッジをかけるため、当面のドル/円相場にはニュートラルだが、将来、海外企業の買収などに外貨預金が使われる際にはヘッジが外されることでドル高/円安要因になるとみられている。

<邦銀と企業の利害一致>

三井物産<8031.T>は5月、総額3500億円の劣後特約付きシンジケートローン(ハイブリッドローン)を組むと発表した。同社は「非開示情報で答えられない」(広報)としているが、事情に詳しい市場関係者によると「その調達資金のほとんどを円からドルに転換して預金する予定と聞いている」(国内金融機関)という。

こうした動きの背景には日銀のマイナス金利導入がある。マイナス金利政策では、金融機関が日銀に新たに預ける資金のうち、マクロ加算分を除いた政策金利残高にマイナス0.1%の金利が適用される。邦銀には新規の円預金の増加をできるだけ抑えたいインセンティブが働く。

一方、企業は円預金ではほとんで望めない利息が、ドル預金では一定程度つく。余剰資金で海外の買収・合併(M&A)案件をこなすこともでき、ドルで預金することは「金融機関と企業のニーズが合致している」(同じ国内金融機関)という。

米国では早期利上げ観測が高まってきており、利上げが進めばドル調達コストが高まる。また、消費増税延期で、日本の格付けが下がれば、外貨の獲得がさらに難しくなることも想定されるため、ドルを先に手当するメリットもある。

<2年で2兆円規模>

劣後ローンは調達額の一定程度について資本性が認められるため、財務基盤の安定化と格付け維持につなげられる。「事業法人のハイブリッドローンは2、3年前はほどんどなかったが、企業が利便性を理解し始めた」(格付け会社)という。

1月末のマイナス金利政策発表以降では三井物産のほか、三菱地所<8802.T>、いすゞ自動車<7202.T>、日本通運<9062.T>、出光興産<5019.T>などが劣後ローンによる調達を公表した。過去1年間をさかのぼると全体規模は公表済みだけで1兆円超となっており、市場筋によると、今年はさらに複数の大型案件が合計1兆円程度控えているとの観測があるという。

<ヘッジ外しで円安要因に>

もっとも、ドル預金する場合、円高が進行すれば為替差損が発生することから、ドル売り/円買いの為替ヘッジがかけられることが多い。そのため足元の為替相場にはニュートラルで、直接の値動きとしては出てこない。

しかし、実際に海外でM&A(企業の合併・買収)したり、ドルを使用する案件が生じた場合、それと同額分のヘッジが解消されることで、ドル買い/円売りフローが発生する。「どれくらいM&Aが続くかにもよるが、円売り圧力としてじわじわ効いてくる可能性がある」(FXストラテジスト)との声がある。

近年、日本企業が海外企業の買収・投資を行うアウトバウンドのM&Aは活発化している。トムソン・ロイターの調査によると、2015年中に公表された案件は総額878億ドルで過去最高水準。前年比53%増となっている。企業が海外での成長を目指す傾向は継続しており、今後も潜在的な円売り要因となりそうだ。

(杉山健太郎 編集:伊賀大記、石田仁志)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国務長官、ロ外相と電話会談 「全方面に永続的枠組

ビジネス

トランプ氏、FRB議長は「求めれば辞任」 不満あら

ワールド

トランプ氏、パウエルFRB議長解任をウォーシュ元理

ビジネス

NY外為市場=ドル持ち直し、ユーロはECB利下げ受
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、アメリカ国内では批判が盛り上がらないのか?
  • 4
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    関税を擁護していたくせに...トランプの太鼓持ち・米…
  • 9
    金沢の「尹奉吉記念館」問題を考える
  • 10
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中