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アングル:マイナス金利が促す劣後ローンのドル転換、将来の円安要因に

6月3日、日本企業が劣後ローンで調達した資金をドルに転換して外貨預金するニーズが高まっている。写真は都内で2月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 3日 ロイター] - 日本企業が劣後ローンで調達した資金をドルに転換して外貨預金するニーズが高まっている。日銀のマイナス金利が適用される新規の円預金増加を避けたい邦銀の提案を、少しでも利息が欲しい企業が受け入れる傾向にあるという。為替ヘッジをかけるため、当面のドル/円相場にはニュートラルだが、将来、海外企業の買収などに外貨預金が使われる際にはヘッジが外されることでドル高/円安要因になるとみられている。
<邦銀と企業の利害一致>
三井物産<8031.T>は5月、総額3500億円の劣後特約付きシンジケートローン(ハイブリッドローン)を組むと発表した。同社は「非開示情報で答えられない」(広報)としているが、事情に詳しい市場関係者によると「その調達資金のほとんどを円からドルに転換して預金する予定と聞いている」(国内金融機関)という。
こうした動きの背景には日銀のマイナス金利導入がある。マイナス金利政策では、金融機関が日銀に新たに預ける資金のうち、マクロ加算分を除いた政策金利残高にマイナス0.1%の金利が適用される。邦銀には新規の円預金の増加をできるだけ抑えたいインセンティブが働く。
一方、企業は円預金ではほとんで望めない利息が、ドル預金では一定程度つく。余剰資金で海外の買収・合併(M&A)案件をこなすこともでき、ドルで預金することは「金融機関と企業のニーズが合致している」(同じ国内金融機関)という。
米国では早期利上げ観測が高まってきており、利上げが進めばドル調達コストが高まる。また、消費増税延期で、日本の格付けが下がれば、外貨の獲得がさらに難しくなることも想定されるため、ドルを先に手当するメリットもある。
<2年で2兆円規模>
劣後ローンは調達額の一定程度について資本性が認められるため、財務基盤の安定化と格付け維持につなげられる。「事業法人のハイブリッドローンは2、3年前はほどんどなかったが、企業が利便性を理解し始めた」(格付け会社)という。
1月末のマイナス金利政策発表以降では三井物産のほか、三菱地所<8802.T>、いすゞ自動車<7202.T>、日本通運<9062.T>、出光興産<5019.T>などが劣後ローンによる調達を公表した。過去1年間をさかのぼると全体規模は公表済みだけで1兆円超となっており、市場筋によると、今年はさらに複数の大型案件が合計1兆円程度控えているとの観測があるという。
<ヘッジ外しで円安要因に>
もっとも、ドル預金する場合、円高が進行すれば為替差損が発生することから、ドル売り/円買いの為替ヘッジがかけられることが多い。そのため足元の為替相場にはニュートラルで、直接の値動きとしては出てこない。
しかし、実際に海外でM&A(企業の合併・買収)したり、ドルを使用する案件が生じた場合、それと同額分のヘッジが解消されることで、ドル買い/円売りフローが発生する。「どれくらいM&Aが続くかにもよるが、円売り圧力としてじわじわ効いてくる可能性がある」(FXストラテジスト)との声がある。
近年、日本企業が海外企業の買収・投資を行うアウトバウンドのM&Aは活発化している。トムソン・ロイターの調査によると、2015年中に公表された案件は総額878億ドルで過去最高水準。前年比53%増となっている。企業が海外での成長を目指す傾向は継続しており、今後も潜在的な円売り要因となりそうだ。
(杉山健太郎 編集:伊賀大記、石田仁志)