ニュース速報
ビジネス
アングル:下げ止まらないドル/円、注目される日米実質金利差
4月5日、ドル/円が、1年半ぶりの安値水準に下落している。日本株安と連鎖した円高が進行しているのが背景だが、もう1つの円高要因がにわかに注目されている。日米の実質金利差の縮小だ。写真は1万円札とドル紙幣、都内で2013年2月撮影(2016年 ロイター/Shohei Miyano)
[東京 5日 ロイター] - ドル/円
日銀がマイナス金利を採用して以降、名目金利差は拡大したが、実質金利差は縮小し、市場の関心が高まるにつれ、ドル/円の上値を押さえる要因になり始めている。
<名目金利差拡大でも、実質金利差は縮小>
日米の名目金利差は拡大している。日銀が1月29日にマイナス金利政策の導入を決めて以降、2年債でみた名目金利差は、0.85%付近から上昇基調をたどり、足元では0.94%付近。10年債名目金利差も1.77%付近から1.79%付近に拡大した。
過去をみると、ドル/円は名目金利差に反応する局面もあったが、今年初からの動きは反対方向。
日米の名目金利差が拡大する中で、マイナス金利導入直前の118円後半から、5日には一時110.30円まで下落。日銀が2014年10月31日に決めた量的緩和第2弾「黒田バズーカ2」以来の安値圏に突入した。
最近になって市場が注目しているのは、名目ではなく実質の日米金利差だ。年初から実質金利差は縮小しており、ドル高/円安の動きと高い相関性を示している。
2014年半ばからのドル/円相場では、米早期利上げ期待と日銀緩和期待が重なり、ドル高/円安が急速に進んだが、足元では「過剰に働いていた期待がはく落することで、実質金利差通りの方向に収れんしつつある」(三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト、内田稔氏)という。
<ドル/円下落の局面で実質金利差も縮小>
実質金利は、名目金利から期待インフレ率を引いて算出される。5年先5年のインフレ・スワップ金利を期待インフレ率とみなし、日銀マイナス金利導入後の2年債利回りの実質金利差をみると、名目金利差とは逆に、縮小していることがわかる。
米国ではインフレ指標が改善し、インフレ期待が上昇してきているが、米連邦準備理事会(FRB)は早期利上げへに慎重姿勢を示し、名目金利は低下。この結果、米2年債実質金利は1月下旬にマイナス1.15%だったが、足元ではマイナス1.38%とマイナス幅を拡大させている。
一方、日本では、マイナス金利政策を受けて名目金利は急低下したものの、この間に期待インフレ率も低下した。このため足元で2年債の実質金利はマイナス0.39%と、マイナス金利政策決定前のマイナス0.49%付近からマイナス幅が縮小した。
この結果、日米の実質金利差はマイナス0.66%がマイナス0.99%程度へとマイナス幅が拡大(プラス金利での金利差縮小と同じ作用)し、相対的な円の魅力は高まった。
<実質金利拡大ならドル安/円高の反転意識も>
これまで日米の実質金利差が、常にドル/円の決定要因とされてきたわけではない。
市場が金利差に着目するのは一時的な流行の可能性があると、三菱UFJモルガン・スタンレー証券・チーフ為替ストラテジスト、植野大作氏は指摘する。
ただ、最近のドル/円が日米実質金利差との相関性を高めていることで、取引などの「口実につかわれやすい」(植野氏)という。市場の注目度が上がれば、さらに相関性は高まりやすい。
この場合、日米の実質金利差が拡大すれば、足元で進むドル高/円安基調の転換が意識される可能性も出てくる。
インフレ期待が堅調な米国では、米早期利上げへの思惑が強まり、それが名目金利の押し上げにつながるかがポイントだ。
一方、日本では、日銀のマイナス幅拡大による名目金利の押し下げも1つのルートとなるが、インフレ期待が低下してしまっては、実質金利は低下しにくい。
1月のマイナス金利導入後、日本のインフレ期待は低下している。ニッセイ基礎研究所・シニアエコノミスト、上野剛志氏は「金融市場の混乱や円高進行などがインフレ期待押し下げに働く中、それを押し切るほどにはインフレ期待の押上げ効果は、マイナス金利政策では出なかった」と指摘する。
三菱UFJMS証の植野氏は、大型景気対策や消費増税先送りなど、財政支出に期待する。「これで景気の『気』の部分が上向いてくれば、インフレ期待は上がってくる可能性がある」との見方を示している。
(平田紀之 編集:田巻一彦)