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焦点:ドル高是正で「G20協調」の思惑、市場混乱の収束で増幅
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3月18日、上海で2月に行われた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、各国当局がドル高是正で水面下の合意に達していたのではないかとの観測が市場で浮上している。上海G20で記念撮影に臨む財務相、中銀総裁ら。2月撮影(2016年 ロイター/Aly Song)
[東京 18日 ロイター] - 2月に上海で行われた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、各国当局がドル高是正で水面下の合意に達していたのではないかとの観測が市場で浮上している。
欧州中央銀行(ECB)が緩和手段を突然見直した一方、米景気がドル高で失速する事態は各国共通の大きなリスクで、市場不安定化など混乱回避を狙った「協調」があってもおかしくないとの見方だ。当局から肯定する情報はないものの、市場混乱が収束しつつあることが、「協調」への思惑を増幅させている。
<ドラギECB総裁の変節、真の狙いは>
市場の憶測が強まるきっかけとなったのは、10日のECB理事会。中銀預金金利のマイナス幅拡大は予想通りだったが、資産購入枠・対象の拡大や新たな資金供給策導入など、予想外の大規模包括緩和を突然打ち出し、政策手段の軸足を「金利」から「量」へ再び移行させた。
特に注目を集めたのは、階層金利制度の見送り。事前には日銀と似た2段階制の導入を予想する声もあったが、理事会協議の結果は不採用。ドラギ総裁は、期待ほど金利が低下しないことや、複雑さ、追加引き下げの思惑回避などを理由に挙げた。
ECBウォッチャーによれば、域内格差が大きい欧州は、銀行の置かれた環境も非常に多様。一律管理する階層制を採用しても効果が上がりづらい。
だが、銀行間格差の存在は以前から認識され、なぜ今「量」へ方針転換する必要があったのか、との根強い疑問がささやかている。
一部で浮上している「限界説」通りなら、マイナス幅をさらに拡大させてリスクを積み増す必要もなかったはず──。そうした疑問の間で浮上してきたのが協調説だ。
効果が未知数で「壮大な社会実験」(国際金融筋)とも言われるマイナス金利政策。まだ、定まった評価はないが、銀行のバランスシートに直接影響を及ぼす量的緩和に比べると、通貨安は重要な波及経路のひとつとされる。
つまり「量」へのシフトは、政策から生じる通貨安圧力の減退につながる。ECBの狙いの1つは、ここにあったのではないかとの解釈だ。
<政治の季節到来の米、通貨高はしばらくご法度>
憶測が広がり始めた要因は、ECBだけではない。G20で初の議長を務めた中国も、その後に行われた全国人民代表大会(全人代)で、財政出動強化を明言。同時に人民元の再切り下げを否定した。
具体的には、金融政策の「穏健」な運営方針を掲げ、ドル高につながりかねない元安誘導の思惑を強くけん制した。今年は人民元再切り下げをメーンシナリオの1つに据える投資家が多かっただけに、ここまでの当局の言動は、参加者に少なからず予想外の動揺を及ぼした。
さらに韓国では、中銀総裁が先の会合で追加緩和の可能性を明確に否定。南アフリカは予想外の利上げに踏み切った。通貨高が進行しているオーストラリアも、懸念こそ示したものの、従来のようなけん制発言は封印している。
G20メンバー国で相次ぐこうした出来事は、参加者の目に「ドル高是正」を水面下で共有したかのごとく映り始める。もちろん本丸の米連邦準備理事会(FRB)が、利上げ見通しを後退させたこととも整合的だ。
ひょうそくを合わせるように市場では、G20前後から年初来の市場動揺が急速に安定。商品や新興国株・通貨が買い戻され、ドルが下げ基調を強めてきた。
産油国減産の思惑、中国資本流出の緩和などが落ち着きの背景とされるが、決定打に欠いたまま強まるリスクオンを明快に説明できる要因は、あまり見当たらない。普段は目から鼻へ抜けるような動きを見せるファンド勢ですら「違和感をぬぐい切れず、今回のリスクオンには乗りきれていない」(ヘッジファンド関係者)という。
ドル相場はこの1カ月、対円を除き幅広く下落。JPモルガン・チェース銀行の棚瀬順哉チーフFX/EMストラテジストは、過去数年来の「ドルの過大評価の修正が、本格化した可能性」を指摘する。
だが、米金利が上昇しても低下しても、切り返すことがないドルの不自然な動きに首をかしげる参加者は少なくない。
ブレイナードFRB理事は今月7日の講演で、ドル高が国内総生産(GDP)を1%押し下げるとの試算を披露した。
米国では今後、大統領選や環太平洋連携協定(TPP)の議会承認という政治の季節が到来する。通貨政策を担う財務省で国際担当次官を務めた同氏の発言に対し、景気失速以外の火種にもなり得るドル高を心配する米政策当局の本音が隠れていると、分析する市場関係者の声もある。
(基太村真司 編集:田巻一彦)