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否決された「大阪都構想」、地方改革の遅れに懸念も

2015年05月18日(月)17時10分

 5月18日、「大阪都構想」は住民投票で否決されたが、週明けの東京市場で特に嫌気するムードは広がっていない。写真は橋下徹大阪市長。都内で2012年11月撮影(2015年 ロイター/Issei Kato)

[東京 18日 ロイター] - 「大阪都構想」は住民投票で否決されたが、週明けの東京市場で特に嫌気するムードは広がっていない。日本株は上昇、大阪銘柄や地方政府債も小動きだ。しかし、支出側からみた国内総生産(GDP)に占める地方財政の割合は中央政府の2.4倍。借入金残高も200兆円を超える。地方改革の遅れを懸念する声は少なくない。

<あくまで大阪の問題と受け止め>

大阪維新の会が示した大阪都構想には、土地の再開発(うめきた地区)や環状高速道路建設、交通インフラ整備、カジノ構想などが入っていたが、18日の市場で関連銘柄には大きな影響は出ていない。

京阪神ビルディング<8818.T>は0.85%安となったが、阪急阪神ホールディングス<9042.T>は2.23%高、西日本旅客鉄道<9021.T>も1.51%高と日経平均<.N225>の上昇率0.8%を上回った。

シャープ<6753.T>は個別要因で急落しているが、大阪ガス<9532.T>や大阪製鉄<5449.T>などもプラスで引けている。地方債市場でも、大阪債の動きに大きな影響はない。

日経平均は続伸し1万9800円台後半を約2週間半ぶりに回復。調整一巡感が出てきた。「市場全体としては、大阪都構想の住民投票での否決は大きな影響は出ていない。あくまで大阪の問題と受け止められているようだ」(アストマックス投信投資顧問・証券運用部シニアファンドマネージャーの山田拓也氏)という。

<地方改革の機運削げば、長期的な問題に>

しかし、「大阪都構想」の是非はともかく、僅差とはいえ、現状維持を大阪住民が選択したことで、今後の地方改革に少なからず影響が出てくるのではないかといった懸念は、じわりと市場でも広がっている。

地方財政がGDP(支出側、2013年度)に占める割合は11.7%(56兆4739億円)と中央政府の2.4倍。一方、借入金残高は201兆3599億円と1991年度から2.9倍に膨張した。

「大阪都構想」は二重行政解消による財政改革が大きな目的だが、財政再建は他のほとんどの地方政府にとっても待ったなしの課題だ。「地方創生」は地方の財政改革を抜きには語れない。

ニッセイ基礎研究所・チーフエコノミストの矢嶋康次氏は「地方再生はほとんど進んでいない。改革の機運が削がれれば、長期的にみて日本の大きな問題となる」との見方を示している。

<「シルバーデモクラシー」>

今回、勝敗を左右したのは、高齢者層の反対だったと分析されている。改革を望む現役世代と現状維持を望む高齢者世代。2つの対立軸がここでも浮かび上がった。

「シルバーデモクラシーが改革を阻害する構図が確認された。今回はあくまでも大阪都構想をめぐる住民投票だが、来年夏の参院選を控え、国政でも痛みを伴う改革を進めづらくなった」と、SMBC日興証券・日本担当シニアエコノミストの宮前耕也氏は指摘する。

アベノミクス相場をけん引してきた海外投資家は、マクロ的な構造改革への期待感を失っているという。「もはや成長戦略や構造改革などマクロの改革進展に期待する海外投資家はほとんどいない。今は、コーポレートガバナンスなどミクロの改革に期待は移っている」(外資系証券エコノミスト)という。

構造改革への期待感が後退しても株価が上昇するのは、こうしたことも背景だ。だが、団塊の世代が後期高齢者になる2025年問題が待ち受けるなど、行政サービスと負担(税金)のバランスをいかにとっていくかは、大阪だけでなく、日本がいずれ「答え」を出さなければならない問題だ。マクロの改革なしに日本が持続的な成長軌道に乗ると楽観するのは難しい。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

*写真を差し替えました。

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