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インタビュー:増税なき財政再建は困難、増税封印に異論=日生会長

2015年04月13日(月)13時57分

 4月13日、経済同友会・副代表幹事のひとりである岡本圀衞・財政税制改革委員会委員長(日本生命保険会長)はインタビューで、増税なき財政再建は困難と述べ、消費税率10%超の議論を封印すべきではないとの認識を示した。2009年7月撮影(2015年 ロイター)

[東京 13日 ロイター] - 経済同友会・副代表幹事のひとりである岡本圀衞・財政税制改革委員会委員長(日本生命保険会長)はロイターのインタビューで、増税なき財政再建は困難と述べ、政府が今年夏に策定する財政健全化計画で、消費税率10%超の議論を封印すべきではないとの認識を示した。 

経済同友会は今年1月にまとめた政策提言で、2020年度の基礎的財政収支(PB)黒字化達成には、社会保障費の伸びを毎年5000億円抑制し、消費税率を10%に引き上げた後も18年度以降毎年1%ずつ引き上げ、将来は17%程度まで引き上げる必要があると提言した。

成長に依存した希望的観測に苦言を呈し、諸外国に比べても緩い財政健全化目標を反故(ほご)にするようでは、日本の財政に対する信認を失うと警告。20年度のPB黒字化目標の堅持を訴え、より実効性を担保するために具体的な数値を盛り込んだ財政健全化の道筋を求めた。

財政収支改善との関連で重要な要因となる金利上昇について、岡本氏は「悪い意味での金利上昇はある日突然起こる」と警戒し、日銀の量的・質的緩和(QQE)について、追加緩和は「そろそろ好ましくない」と語った。

インタビューは10日に行った。概要は以下の通り。

──1月の提言に込めた思いは。

「私以上に財政・税制改革委員会の多くの委員が、危機感をもっていた。委員からは、『苦い薬を飲め』、『次世代にツケを残さないために』、あるいは今これだけ金利が低いからいいじゃないかとの見方に対して『とんでもない』といった意見がいろいろ出た。そんな『とんでもない』(と思われる)ことを一回並べてみようとなった」

「経済成長と財政再建は相反するものに見えるが、諸外国をみても、財政再建の道筋がある程度できている国においては、その国に対する信認が厚くなる。金利も低いなかで、経済発展につながっていく。この2つは相反するものでなくて一本である」

「『経済成長なくして財政再建なし』という言葉もあるが、後者の財政再建を語らない経済成長(偏重)で止まってしまうのが多いが、逆に国家が財政再建もきちんと打ち立てていくなかで、経済成長が健全に発展してくという考えが委員会の全体のトーンだった。財政再建は経済成長がある時にこそ取り組めるテーマであり、正に、それは『今だ』ということで提言した」

──提言に対する反応は。

「私が接する中では皆、正論だという人が多い。もちろん、3%成長が本当に実現できるのか、(2024年度までに目指す)消費税率17%について、10%への引き上げで大騒ぎしている中で実現性はあるのか、社会保障費の伸び抑制についても小泉内閣の時に年2200億円で失敗したことを考えると、5000億円は高齢者に対して冷たい国だとなり難しいなど指摘はある。特に政治家は社会保障について強い反応を起こす」

「ただ、われわれの提言は、経済成長、歳出削減、歳入改革のどれもが困難な前提であり、2020年度のPB黒字化を達成させるということは、難しい前提を全てやり上げて初めて達成可能な目標だということだ」

「いずれかのみに力点を置いた取り組みではなく、みんなで痛みを分かち合い『三位一体』で財政再建を実現していくための議論をしてくべきと訴えている。あるところが楽をすると、ほかのところがもっと苦労する構図だ。3%成長は経済界が負担すること。消費税を17%まで上げることは国民全体が負担すること。社会保障関係は主に高齢者が負担すること。その土俵を作って議論を俎上(そじょう)に乗せていくことが大きな目的だ」

──歳入改革については、甘利明経済再生相が消費増税は10%までと言明し、20年度までの計画期間中のさらなる増税について、既に議論を封じている。足元からシナリオが崩れる。

「増税なき財政再建は、困難だ」

「今回の提言で、唯一2020年度にPB黒字化を達成できるのは、『名目成長率3%、消費税は段階的に13%まで引き上げ(2024年度までに17%)、社会保障費は毎年5000億円削減』のシナリオだけだ。ある部分の議論が封じ込められてしまうと、やりづらくなる」

「消費税率の引上げを10%で止めるのであれば、消費税率引き上げにより想定している税収増を賄うだけの、経済成長による税収増、もしくは、社会保障をはじめとする歳出削減をしなければならない。経済成長3%、社会保障費の毎年5000億円削減でも困難な前提であるのに、さらに高い水準を求めることは、2020年度の黒字化目標達成の実現可能性をさらに困難にさせる」

「国民の理解促進のために、20年度PB黒字化目標を達成するには、どの程度の経済成長・歳入拡大・歳出削減をすれば達成できるか、抽象的な議論ではダメで、具体的な数字を示すことが必要だ」

──夏の計画には、消費税率10%超のシナリオを明記していくべきと考えるか。

「それがないと実現が難しい。消費税に代わる手立てがあるならよいが、次世代にツケを残さない意味では、一番広い概念は消費者全体が受け持つ意味で(10%超の消費税引き上げを)やるべきだ」

──社会保障改革では、20年度までの計画期間中に最優先で取り組む課題は何か。

「提言では、医療・介護分野の給付抑制や利用者負担増、年金分野の抜本改革等を直ちにスタートすべきと強く訴えている。個別メニューで見れば、実現可能性の高いものから困難なものまで、あるいは、削減効果の大きいものから小さいものまであるが、総合的に勘案した計画を直ちに作る必要がある。方法論としては、できるところからスタートさせることだ」

「その際には、今後、高齢化の進行によりさらなる自然増が想定される分野、たとば、後期高齢者医療費などは、早急に手立てを講じていく必要がある」

──目標として債務残高対GDP比をPB黒字化より優先する考えがある。

「債務残高対GDP比を下げていくこと自体は、財政の発散を防ぐ最終的な目的であり、財政再建の中長期的な視点としては大事なことだ。否定するものではない。ただ、国際的なコミットメントとして掲げている20年度PB黒字化との関係で見ると、日本の財政再建の取り組みを後退させることにつながりかねない。間違ったメッセージを市場に送ってしまう可能性も懸念する」

「もともと、G20サミットにおいて、他の先進諸国が財政収支を目標としたのに対して、日本は財政事情が考慮され、財政収支から利払費を除いたPBを目標とすることが許された。また、その達成時期についても、他の先進諸国が2013年までに財政収支赤字半減を目標としたのに対して、日本は2015年度までにPB赤字半減、2020年度までにPB黒字化を目標とすることが許された」 

「諸外国が約束したより、一回りも二回りも遅れた国際公約すら反故(ほご)にしてしまうと、日本に対する信認が危なくなる。日本が今、一番こだわらなければならないのは国際公約だ。PB黒字化目標達成が苦しいからといって、債務残高対GDP比を優先するような発想では、わが国の財政再建への本気性が疑われることになる」

「債務残高対GDP比の分子である債務残高の伸びを抑制するという、着実な取り組みから目をそらしてはならない。分母であるGDPの拡大という、希望的なものだけに頼った財政再建取り組みは危険だ」 

──政府は昨年の骨太の方針に「20年度にPB黒字化を達成した後に、債務残高対GDP比を安定的に下げる」と明記し閣議決定した。計画にもこの順番で目標を盛り込んでいくほうが望まいか。

「(PB黒字化を)達成した後、どういう指標を使うかはいろいろある。債務残高対GDP比は1つの選択肢だが、国の財政は金利も入る。今度は財政収支でみていこうというのがより厳しい話だ」

──財政再建は失敗の歴史だった。今夏の計画の実行を担保するには何が必要か。

「提言では、財政再建を中長期的な取り組みとするため、法的拘束力のある制度として、財政健全化法の制定、予算制度の改革、独立財政機関の設置を提言している」

「ただ、過去を振り返ってみれば、財政構造改革法のように法的拘束力を持たせた財政再建取り組みであっても、政治的判断により凍結されてしまった例もある。法律をつくれば全部解決かというとそうではない。作り上げた制度について、政治家から国民全体に至るまで、それをやり遂げるという不退転の覚悟や決意を持つことが必要だ」

「さらに、自民党の憲法改正草案をみると、かなり財政についても書き込んでいる。時間はかかるだろうが、単に法律だけでなくここまでくると大分違ってくる」

──実効性を担保するうえで政治の役割は。

「われわれがこの提言を出したのは、危機的状況にあることを示すことで、政治の側をバックアップしているつもりだ。政治の方も『充実』ばかり訴えないで、そういう面で(危機的状況を見据えて)ステーツマンとして発信していただければという気持ちだ」

── 財政収支の改善では金利上昇が懸念材料になる。日銀の量的・質的緩和(QQE)からのソフトランディングに向けて、出口の時期とどのようなパスを想定するか。

「米国をみても、QQEは入口はいいが、出口となるとなかなか出られない。経済がよくなっても、また腰折れするのではないかということで、なかなか実行できない。入口をどんどん広げるのはよくない」

「日銀の保有する国債の規模は、今や国債発行残高の4分の1を占め、また、国債の買い入れ規模は、政府の15年度市中発行額に対し、年換算で最大9割超に及ぶまでになっている。ここまでの規模となると、マーケットに対する影響は大きく、国債市場が正常に機能している状態とは言い難い。かなりいびつなものを作って、正常なマーケットでなくすことは、その後、どのような話になっていく変わらない問題がある」

「米国の出口戦略を見ていても、出口の時期やパスを見通すのは難しい。だた、日銀のバランスシートをみると(買い入れた国債などの資産の)国内総生産(GDP)比は6割を超える。このような大きなバランスシートを持っている中央銀行は世界にない。客観的に減らしていく努力は必要とは思うが、出口についての情報は持ち合わせていない」

「財政健全化の方向性が示されていない中で量的緩和を停止すれば、長期金利の高騰を招く恐れがある。出口のソフトランディングのためには、財政再建の道筋が立っていて、国に対して信認があることが絶対条件だ」

「金利上昇、国債暴落はいろいろな要素が絡む。決して消費税だけでもないし、経常収支がどうなるか、個人金融資産がどういう状況で債務残高がどうか、その関連性がどうかなど合わせ技のなかで、悪い意味での金利上昇はある日突然起こる」

「日本では国債を保有しているのは日本人・日本の金融機関が93%程度で、海外はほとんどない。だから安定的であると言われるが、マーケットにおいてフローとして動いているのは、外国(勢)が結構多い。それによってどう動くかがある」

「また、日本の銀行や保険会社が塩漬けで持ち続けるかどうかは、ほかの要素と一緒に考えていかなければならない。国債を手放したり買わないということになってくれば、金利反転はいくらでも考えられる。リスクとして常に考えておかなければならない」

「実際に金利急騰となるかどうかは、政府や国債に対する信認が維持できているかどうかが、極めて重要である」

──「入口を広げることはよくない」とは、追加緩和は好ましくないということか。

「そろそろ好ましくない」

「これ以上にネガティブなのは、既にもう異次元だということだ。(日銀のバランスシートの)GDPとの関係、マーケットにおける日銀の突出した売買状況からみて、異次元だ。それはもとに戻していく必要がある」

──昨年の消費税引き上げによる消費の落ち込みは想定以上に大きく、将来17%までの引き上げに日本経済は耐えられるか。消費税率を10%まで引き上げた後は、さらなる税財源は、所得税など他の税目で増税を図るほうが経済にとって良いのでないか。

「今回の提言では、改革に必要な視点として、現役世代に過度な負担をかけず、幅広い世代が支える税制とすることが必要だとしており、現役層だけでなく幅広い層で薄く支えることが期待される、消費税を取り上げている」

「財政再建に必要な歳入拡大額は、消費税率17%と10%との差である約18兆円と試算しており、消費税以外で適切な財源を確保できるのであれば、何も消費税引き上げだけに頼る必要はない」

「ただ、財政問題は国民全体の問題だ。そのため所得税などのように一部の人に負担が偏ってしまう税財源ではなく、国民全体で幅広く負担すべきものであり、その観点から消費税がふさわしいと考えている。もちろん、消費税率10%への引き上げがこれだけ大きな議論になる中で、17%は大変な覚悟が必要な数字だという認識はある」

「日本経済への影響を最小限に抑えるため、消費税増税時の逆進性対策として低所得者への手当てを実現することや、欧州諸国と比べれば決して高い税率ではないことを国民へ啓蒙することなど、増税に対する抵抗感をやわらげていくことが大切だ」

(吉川裕子 スタンレー・ホワイト:編集 田巻一彦)

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