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アングル:中国政府、地方債のデフォルト放置は口だけか

2015年04月10日(金)17時10分

 4月10日、中国は地方政府債などのデフォルトを許し、投資リスクを市場価格に反映させるようにする方針を示したが、相反するメッセージも発しているため、投資家はいざとなれば政府が今後も救済に入るとの見方を変えていない。写真は2011年1月、上海で撮影(2015年 ロイター/Carlos Barria )

[上海 10日 ロイター] - 中国政府は地方政府債などのデフォルト(債務不履行)を許し、投資リスクを市場価格に反映させるようにする方針を示した。しかし同時に相反するメッセージも発しているため、投資家はいざとなれば政府が今後も救済に入るとの見方を変えていない。

中国財政省は3月、推計3兆元に上る地方政府の高金利債務のうち、1兆元(1610億ドル)を低金利の地方政府債と交換する計画を発表。中央政府ではなく地方政府が返済責任を負うとした。新たな債券は「市場原則に基づき」発行されると財政省は強調した。

しかし当局は4月1日、全国社会保障基金(NSSF)の投資範囲を拡大し、地方政府債を購入できるようにする方針も示した。

国際通貨基金(IMF)のショーン・ローシュ香港常駐代表はNSSFの新方針について、地方政府債の購入層を広げ、利回りが上昇し過ぎないよう抑えるのが狙いの一部かもしれない、と見ている。同時にこれで、地方政府のデフォルトが放置される可能性が低下するともローシュ氏は指摘する。デフォルトすればNSSFに預けた納税者の資金が吹き飛ぶからだ。

厳しく管理された中国の債券市場において、社債発行を許可された企業の大半は何らかの形で国の支援を受けている。このためNSSFによる購入のニュースに反応して社債利回りは急低下した。格付けが「AA」と「AAA」の社債利回りは15ベーシス(bp)前後の低下と、2014年11月のサプライズ利下げ以来で最も大きく下げた。

7日には、投資家がデフォルトを恐れていないことを示す出来事がさらに加わった。インターネット企業、中科雲網科技集団(クラウド・ライブ・テクノロジー・グループ)がデフォルトに陥ったが、社債利回りがほとんど動かなかったのだ。これは1年前、上海超日太陽能科技がデフォルトを起こし、社債利回りが急上昇したのとは対照的だ。

同社は数カ月後に地方当局の支えで救済された。中国の金融システムがこれほど小さな企業の破綻さえ受け止められないのなら、地方政府やその関連企業の破綻が見過ごされるはずはない、と投資家は結論付けた。

NSSFによる地方政府債の購入許可というニュースが、この結論をさらに強固なものとした。

ある主要なベンチャーファンドの投資マネジャーは「政府はこれら地方政府と関連企業の債務を保証すると正式に認めた。クレジットリスクの分析という見地からすると、これは良くないことだ」と話す。

<ソブリン債と同等>

その上、金融市場では中国の地方政府債がソブリン債と実質的に同等に扱われている。

債券清算会社がまとめた地方債指数の利回りは、期間5年のソブリン債(利回り3.5%)を10bp上回るにとどまっている。高格付けの商業債務の利回りが5%程度なのに比べ、はるかに低い。

政府は地方政府が債務返済の責任を負うと表明したが、これは地方政府が返済に窮するずっと前に中央政府が財政移転その他の方法で介入するという事実を覆い隠している、と専門家は指摘する。

これで地方政府債はデフォルトを起こしにくくなるだろうが、代わりに中央政府が損失を負うことになる。

これは中国ソブリン債の利回りを押し上げかねない。事実、地方政府の債務交換が発表されて以来、ソブリン債利回りは約15bp上昇した。

UBSの債券アナリスト、シー・チェン氏は8日のリポートに、「(地方政府債の)供給ショックにより国債利回りは極端なケースでは50─100bp上昇する可能性があるとみている」と記した。もっともデフレ圧力と景気減速の影響が利回りの上昇を抑えそうだという。

(Nathaniel Taplin記者)

ロイター
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