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焦点:関空民営化手続き視界不良に、入札価格高く買い手が二の足

2015年03月25日(水)13時42分

[東京 25日 ロイター] - 世界的な建築家、レンゾ・ピアノ氏がターミナルビルを設計した新関西国際空港の民営化計画が、視界不良に陥っている。国内最大の空港民営化案件として激しい争奪戦が予想されていたが、高過ぎる最低入札価格を前に民間企業が及び腰になっているためだ。

このままでは、民間資金の活用を掲げる安倍晋三内閣の実行力に疑問符を投げかける事態にもなりかねない。

国が予定している関空と大阪(伊丹)空港の45年間の運営権の売却最低価格は、2.2兆円。空港を運営する新関西国際空港会社が昨年7月に発表した。これは2013年にポルトガル政府が売却したポルトガル空港公社(ANA)の金額の6倍近い規模となる。

なぜ、これほどの高額になったのか。複数の関係者は、運営権の対価を高く設定することによって、空港建設に伴う約1.2兆円の負債返済を民間に負担させようとしているからだと話す。

関空・伊丹空港の運営権売却は、安倍政権が掲げる成長戦略の目玉の1つであるPFI(民間資本を活用した社会資本整備)の代表例とされる。安倍政権は今後10年で12兆円の民間資金をPFIに呼び込むとしており、関空の運営権売却が成功すれば、その大きな部分を占めると期待される大型案件。

東洋大学大学院(経済研究科公民連携専攻)のサム田渕教授は、国が主導する運営権の対価の決め方について「これまで官が主導でやってきた結果、背負うことになった負債を、これからは民に背負ってくれと言われても無理がある」と話す。

ただ、新関空会社と国土交通省、財務省は価格引き下げに応じるつもりはなく、海外からの観光客数や航空機の発着枠の拡大が見込め、売却価格には正当性があると主張する。

こうした状況に、買い手候補は二の足を踏んでいる。このため、国は今年2月とされていた1次入札の締め切りを3カ月間延期した。

国は昨年12月、オリックス<8591.T>、三菱商事<8058.T>、三井不動産<8801.T>など9社が、コンソーシアムを作るための「代表企業」となる資格条件を満たしていると発表。

アリタリアのほか、英ヒースロー・エアポート・ホールディングスを傘下に持つフェロビアルなど11社が空港運営会社となる資格条件を満たしたと公表した。

このほか、メルボルン空港の主要株主であるAMPキャピタルとIFMインベスターズも入札参加資格条件を満たしている。

AMPキャピタルは、ロイターに対し「劣後債の投資家として、コンソーシアムに参画することに興味がある」との考えを明らかにしたうえで、「複数の買い手候補と協議を重ねている」とコメントした。

スタンダード&プアーズの主席アナリスト、柴田宏樹氏は、関空の建設費用が高過ぎ、そのコストを引き継いでいるのが今の新関空会社だと指摘。現行の負債をすべて民間で肩代わりする考え方は「信用力分析の視点から見ると、相当重いだろう」と述べている。

(藤田淳子、翻訳編集:江本恵美)

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