コラム

「いかれた鳩山」報道が示す兆候

2010年04月19日(月)17時53分

 米ワシントン・ポスト紙で米政府がらみのゴシップ記事を執筆しているアル・ケーメンは、先週ワシントンで行われた核安全保障サミットに関する記事の中で、鳩山由紀夫首相について触れた。


今回のパーティーで間違いなく最大の敗者になったのは、不運で(一部の米政権高官が言うには)ますます頭がいかれてきた日本の鳩山由紀夫首相だ。彼はもともと日米首脳会談を求めていたが、実現しなかったとの報道もある。慰めに与えられたのは「非公式」の会談だけで、それも夕食会の最中に行われた。ひょっとしてメイン料理とデザートの間とか?

金持ちの息子として生まれた鳩山は、日米間で意見が分かれる普天間問題をめぐって、オバマ政権から「当てにならない」と思われ始めている。鳩山はオバマに対し、2度にわたって問題解決を約束した。長年にわたる日米間の合意によれば、普天間飛行場は沖縄県内の市街や住宅地から離れた場所に移転されることになっていた(現在は8万人が暮らす宜野湾市の中心部にある)。

しかし鳩山率いる民主党は合意を見直し、別の案を提示すると言い出した。期限は5月となっているが、今のところ何の案も提示されていない。

由紀夫、日本はアメリカの同盟国だということは覚えてるよね? 巨額を投じたアメリカの核の傘のおかげで、日本は膨大な金を節約してきたよね? 今もアメリカ人はトヨタなど日本製品を買っているよね?


■日本を失いつつあるアメリカ

 この際、「頭がいかれてきた」や「金持ちの息子」といった悪意に満ちた言葉や(金持ちだから何だというのか)、「核の傘」やトヨタ車の購入を慈善活動のように書き連ねた部分は無視しよう。するとケーメンが、普天間問題をめぐる議論の複雑さを、わずか数段落で片付けてしまっていることに気付くはずだ。

 彼の記事は私が以前に書いた、アメリカが「日本を失いつつある」という見方を裏付ける新たな兆候かもしれない。「頭がいかれた」鳩山のせいでアメリカは重要な同盟国を失いつつあり、今後は中国の意向をある程度たてる必要性を感じ始めている。日本のメディアも当然、すでにケーメンの記事を報じており、米中が接近するなかで鳩山は国際舞台で日本に恥をかかせていると論じている。

 念のために言っておこう、ミスター・ケーメン。日本はアメリカと同盟関係にある独立した民主国家であり、アメリカの植民地ではない。確かに鳩山の対応はまずいが、彼は日本にとって最も重要な同盟国の懸念と、彼を選出した有権者の懸念の間で何とかバランスを取ろうとしている。あのような中傷ではなく、もっと評価されてしかるべきだ。

[日本時間2010年04月15日(木)12時14分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

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