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コラム
トバイアス・ハリス オブザーヴィング日本政治
生方騒動にウエストミンスター制の本質を学べ
「数人の閣僚(と一部の造反者)を除けば、最近の議員たちはよくしつけられたイエスマンでしかない」
近代社会学の父マックス・ウェーバーは1918年、著書『職業としての政治』でそう嘆いた。
「かつてドイツの国会議員は、国民の幸福のために活動しているポーズとして、少なくとも机の上の郵便物には対応したものだ。だがイギリスでは、そんなポーズを取る必要もない。国会議員の仕事は党の言うままに投票することだけ。院内幹事から招集されたら登院し、内閣または野党の指導者から命じられたとおりに行動する」
ウエストミンスター制と呼ばれる議員内閣制の本質は、与党が内閣に対して、内閣が出した法案をスムーズに可決することを請け負うという仕組みにある。そのためイギリスでは、議会政治の台頭と、トップダウンの指導力をもつ強力な政党の成長は連動している。
ただし、イギリスでさえこの制度は盤石ではない。党の方針に反旗を翻す議員はめずらしくない。
私がここでウエストミンスター制を取り上げたのは、日本の民主党が同様のシステムを根付かせようとしているからだ。しかも、民主党の小沢一郎幹事長は、内閣と与党の関係を変えるこの仕組みの導入を、どの議員よりも強く決意している。
■必要なのはイエスマン議員
もっとも、民主党が政権を取ってから半年あまり、民主党議員の中からも「よくしつけられたイエスマン」になることを拒み、小沢が導入した新体制に反発する動きがみられるようになってきた。
最近では、小沢への権力集中と党内の言論抑圧を批判した生方幸夫副幹事長がいい例だ。いったん生方の解任が発表された後に撤回されたが、もし解任されていれば生方は民主党の「ウエストミンスター化」への反対運動を全力で展開しただろう。
民主党政権は、与党との癒着を断つことで公務員制度改革を進めようとしている。そうすることで、政策(と地方への助成金)のコントロールを内閣と民主党執行部に一元化しようとしている。一般議員の視点で見れば、喜ばしい流れではない。
ある程度まで、問題は小沢にある。小沢は党内有数のウエストミンスターモデル信奉者だが、所属議員に対して必ず党の指示通りに動くという「足かせ」を受け入れるよう促す役回りには最も適さない人物ともいえる。
新人議員を脅すような方法で、閣僚経験者(田中真紀子など)を含む年配議員を従わせることはできない。造反する可能性が高いベテラン議員に対しては特に、いじめのようなやり方ではなく、説得したり、タイミング良く便宜を図ったりする工夫が必要だ。
つまり、この手の役回りには繊細さと狡猾さが不可欠であり、それは小沢の得意分野ではない。
■独裁的で反発を招きやすい
もっとも、構造的な問題もある。放任主義の自民党政権が何十年も続いた結果、ウエストミンスター式の管理体制が「独裁的」にみえるのは事実だ(自民党の谷垣禎一総裁も、民主党の小沢支配をそう批判している。それなら、55年体制下の自民党の栄光の時代は「無政府状態」だったと言いたくなるが)。
私は、日本政治という舞台の登場人物(有権者やメディアを含む)に、民主党政権が導入した新システムを理解する力がないことが最大の問題だと思う。
官邸の力を強化できるというウエストミンスター制の目的を明確に発信しなければ、新システムは単に議員の言論を抑え込むだけのものに見えてしまう。小沢による抑圧がある現状ではなおさらだ。
実際、民主党はジレンマに直面している。ウエストミンスター制を一般議員と国民の間に浸透させるためには、政治的な成果をあげる必要がある。だが、成果をあげるためには、党は議員の行動をコントロールする必要がある。
もちろん、完璧なシステムはない。小沢のような「統制主義者」がトップダウンの政策決定構造を構築するのか、それとも一般議員に譲歩せざるをえなくなり、議員が引き続き政策決定や党の運営に重要な役割を果たすのか。どちらのシナリオが現実になるのかは、閣僚にも広がりはじめた小沢批判の成り行きにかかっている。
[日本時間2010年3月21日0時17分更新]
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